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妻敵討ち 鴉道場日月抄

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妻敵討ち 鴉道場日月抄妻敵討ち <鴉道場日月抄>

(めがたきうち からすどうじょうじつげつしょう)

乾荘次郎

(いぬいそうじろう)
[剣豪]
おすすめ度:★★★★

小石川傳通院の近くの小石川金杉水道町に、柳花館(りゅうかかん)という剣術道場がある。唐の詩人・蘇東坡の言葉「柳は緑で、花は紅い」から取った名で、ただそれだけのことをそのまま受け止めることが大切だという意味がある。道場主は、広川柳斎だが、五年前に腹に腫塊ができてから寝込んだまま。柳斎の代わりを務めているのが師範代の高森弦十郎だ。

二十八歳の弦十郎は、信州高島三万石諏訪因幡守の家臣高森格之進の次男。十九歳のときに剣術修行のため江戸へ遊学に出て、強くなることに腐心した。柳花館で柳斎に出会ってからは、その人物に惹かれ、剣術への思いも一変し、以後柳斎を師と仰ぐようになった。師が病床を離れられなくなっても見捨てずに、道場に住み、師の世話をしながら暮らしている。

柳花館の庭に大きな楠が二本生えていて、そこにいつも鴉が群れていることから、鴉道場と呼ばれている。門弟数は二十人に満たず、しかも月謝にあたる束脩(そくしゅう)を取らないために、貧乏道場だ。その柳花館の門弟とその姉が胡乱な浪人に付けねらわれていることを知った弦十郎は二人を匿うが……。

妻敵討ち(めがたきうち)とは、武士の妻が不義密通の末に別の男と駆け落ちした場合、武士である夫が二人を追って成敗すること。妻を寝取られることは武士としては不名誉なことで、妻敵討ちを果さないと復職できなかったという。

表題作のほか、3つの連作短篇を収録。「手負いの鴉」は、道場の庭の楠に来ていた鴉が矢で羽を射抜かれる事件を描く。鴉道場にやってきた四十がらみの浪人の道場破りの狙いとは…(「道場破り」)。弦十郎は、道場の近くの安藤坂で三人の浪人者に因縁をつけられている大店の主を助けたが…(「毒蜘蛛」)。

貧しくても、鳥のように生き生きとして、自在に生きる弦十郎。時には自身の言動に思い悩むが、病床の柳斎の語る言葉で胸のうちにある黒い靄が晴れていく。弦十郎や道場の窮状を見かねて、なんとか助力をしようとする元門弟で若狭小浜藩の留守居役輔佐の山路鉱之助。登場人物たちの好ましく、武家の不条理や世間の厳しさを描きながらも、読み味のよい物語になっている。

剣術道場を舞台にしながら、流派名が出てこないのは新鮮である。弦十郎は何流なのだろうか? ともかく、第二作目の『夜襲』も読んでみよう。

目次■妻敵討ち|手負いの鴉|道場破り|毒蜘蛛

カバー装画:山野辺進
カバーデザイン:柳川昭治
(講談社文庫・514円・2005年8月15日第1刷・266P)
購入日:2006/08/31
読破日:2006/09/03

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