人斬り半次郎 幕末編
(ひときりはんじろう・ばくまつへん)
池波正太郎
(いけなみしょうたろう)
[幕末]
★★★☆☆
♪角川文庫からも1972年に刊行されている。
中村半次郎というと、同じ池波さんの『その男』(文春文庫)での、“人斬り”という異名にそぐわない好漢ぶりが印象に残っている。
この作品でも、半次郎は秀抜な美男子で気がやさしく、豪傑肌として描かれている。“人斬り”の呼び名ほど、バッタバッタと人を斬っていない。そのために、作品全編に明るく、快く読める。もちろん、剣が遣えないわけではない、たとえば、宙に投げ上げた竹の水筒が下に落ちるまでに、竹筒を真っ二つにし、四度剣を抜き、四度鞘に納めるという神業を見せたりするのだ。つまり、剣技や刀、人殺しや血に囚われていないのである。
本編で中村半次郎の生い立ちや人となりはわかるが、この人の真骨頂は、続編にあたる賊将編で見られそうだ。
物語●中村半次郎は、〔唐芋侍〕と卑しめられた貧乏郷士の家に生まれた。父は公金横領の罪で徳之島へ流罪され、そこで病死した。半次郎は、荒地を開墾し、内職の紙漉きをやり、畑仕事をして、一家の柱として母と病弱の妹を養い、「今に見ちょれ!! 俺はな、きっと出世しちゃる。城下侍などに負けもはんど」と、逆境にめげることなく〔示現流〕の剣法を自己流でたゆまず稽古していた。そんなある日、西郷吉之助と出会った…。
目次■なし