西行桜
(さいぎょうざくら)
火坂雅志
(ひさかまさし)
[短編]
★★★★☆
♪「西行」と聞くと、どうしても同じ作者のデビュー作『花月秘拳行』(富士見時代小説文庫)の主人公・西行法師を思い出す。歌人として有名な西行が秘拳〝明月五拳〟を伝承した拳法家として、大和朝廷により圧殺された民の怨念と対決するという伝奇小説だ。とんでもない発想が好きでお気に入りのひとつである。
西行は登場しないが、こちらもスーパーヒーローが活躍する。能楽師・世阿弥元清を主人公とした作品が3篇、平安京随一の狩籠師(退魔師)闇源氏を主人公とした作品が3話、〝比叡山中興の祖〟といわれる第18代天台座主・慈恵大師良源が活躍する話を1篇収録した、時代ホラー小説集。
とくに世阿弥と一座の作物師(つくりものし=大道具係)の道喜(どうき)が活躍する3篇が、『陰陽師』(夢枕獏著・文春文庫)のようで楽しい。
闇源氏は、同時期に活躍した光源氏のライバル?
「降魔大師」は、なぜかウルトラマンを思い出してしまった。〝比叡山中興の祖〟が正月三日に亡くなったので、元三大師と呼ばれるというエピソードもとぼけていていい。
物語●「西行桜」世阿弥は、若狭小浜の領主の屋敷で能を舞っていたときに、霊気を感じた…。「葛城」世阿弥は葛城山に住む面打ちを訪ねるうちに、冬山で道を間違えた…。「鉄輪」世阿弥は貴船神社の奥ノ院に、丑ノ刻参りを見に出かけた…。「無傷」藤原道長の建てた寺の墳墓を荒らす二人の男がいた…。「寝物語」薬種商いの男が、近江と美濃の国境にある長者屋敷の離れに宿をとった…。「腹子石」近ごろ都では、子宝に霊験あらたかな岩神さまの霊石が評判になっていた…。「降魔大師」比叡山・横川香芳谷(よかわかぼうだに)に、元三大師御廟(がんさんだいしみみょう)と呼ばれる古びた墓があった…。
目次■1 世阿弥妖曲集 西行桜/葛城/鉄輪|2 闇源氏物語 無傷/寝物語/腹子石|3 元三大師幻奇譚 降魔大師|あとがき/解説 細谷正充