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いのちなりけり

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いのちなりけりいのちなりけり
(いのちなりけり)
葉室麟
(はむろりん)
[武家]
★★★★☆☆

雨宮蔵人は、佐賀鍋島藩の支藩の一つ、小城藩の重臣で、龍造寺家庶流で武勇の名が高いことで知られる、天源寺刑部の入り婿となる。しかし、祝言の夜、刑部の娘・咲弥から夫婦になる前に、「これこそ自身の心だと思われる和歌を教えてほしい」と言われるが、「学問こそないが、死に遅れるということはない男」と自負する蔵人は答えられず、その歌が見つかるまでは、寝所をともにすることができないと宣言されてしまう。

何とも悩ましいシーンから物語は始まる。鍋島家と龍造寺家の因縁が絡み、やがて、二人は別れ別れになる運命が…。

この物語では、和歌が重要な意味をもつ。本藩鍋島家の当主・鍋島光茂は、誓紙を差し出して「古今伝授」を受けた人物である。京に出て、直接口伝を受けることができない光茂の代わりに、京に派遣された藩士が山本権之丞(後の山本常朝)。すなわち、この物語は、隆慶一郎さんの『死ぬことと見つけたり』や安部龍太郎さんの『葉隠物語』と同じ、「葉隠」の著者である山本常朝の時代の物語である。

「天地仕え、いのちに仕えるのが武士」という蔵人は、まぎれもない葉隠武士であり、その生き様が何とも魅力的で興趣を高めている。

物語は、蔵人が愛する咲弥のために、一首の歌をめぐる純愛の物語である。その裏側で、鍋島家と龍造寺家の抗争から幕府や朝廷の対立まで、話が大きく展開していく。水戸光圀や助さん、格さん、八兵衛のモデルになった人物や、柳生の剣士も絡み、『柳生武芸帳』のような伝奇色も加わり、スケール大きなものになっている。「水戸黄門」の名君ぶりとは一味違う、かぶいた水戸光圀像も面白い。

チャンバラアクションばかりでなく、江戸の学術(和歌や史学、儒学など)を巧みに取り入れて奥行きがあって読み応えある傑作小説に仕上がっている。

主な登場人物◆
雨宮蔵人:小城家馬乗士七十石の家の部屋住み
咲弥:水戸家奥女中取締
深町右京:蔵人の従兄弟で佐賀藩の祐筆役
天源寺刑部:咲弥の父で、小城家御親類格七百三十石
多久権右衛門:咲弥の叔父
鍋島元武:小城藩主
鍋島光茂:佐賀藩藩主
鍋島綱茂:佐賀藩世子
水戸光圀:水戸徳川家先代藩主
藤井:水戸家奥女中取締の老女
藤井紋太夫:水戸家中老
佐々宗淳:彰考館総裁。号は十竹、通称介三郎
安積覚:宗淳の同僚の史臣。号は澹泊
山県源七郎:水戸藩の史臣
小八兵衛:神田の飛脚屋亀屋の主
お初:小八兵衛の娘
長八:亀屋の飛脚
巴十太夫:元武に仕える柳生新陰流の兵法者
山本市十郎(権之丞):佐賀藩小小姓
中院通茂:歌人として名高い公家
千住小四郎:佐賀藩藩士
黒滝五郎兵衛:高田藩家老小栗美作の家臣で、タイ捨流の遣い手
石田一鼎:儒学者
熊沢蕃山:播州明石の学者
武富廉斎:佐賀出身で京での知名士
堀田正俊:老中、上野安中藩四万石
柳沢保明:綱吉の側近
近衛基煕:左大臣
進藤長之:近衛家の諸大夫
吉良義央:高家
小笠原長重:京都所司代、三河吉田藩藩主

物語●元禄七年十一月、水戸屋敷で先代藩主水戸光圀は、交際のある大名、旗本を招いて、自ら能舞台で「千手」を演じた。その後、光圀は中老藤井紋太夫を呼び、手討ちにする騒ぎを起こした。
その翌日、水戸家の奥女中取締の咲弥は、光圀の命で十六年前に別れた夫を江戸に呼び寄せることになった…。
雨宮蔵人が天源寺家の入り婿になったのは、十八年前の延宝四年の一月のことだった。咲弥の父、天源寺刑部は佐賀小城藩で家中筆頭、これに比べ、蔵人は七十石の家の部屋住みに過ぎなかった。
しかも、齢二十六となっても取り立てて評判になったことのない凡庸な大男で風采もすぐれない。角蔵流という組み打ちが取り柄というぐらいで、周囲はこの婿入りを不審に思っていた…。

目次■いのちなりけり/解説 縄田一男

イラスト:中川学
デザイン:関口聖司
解説:縄田一男
時代:延宝四年(1676)、元禄七年(1694)
場所:小石川水戸屋敷、小城、佐賀城内、小城藩江戸屋敷、松梅村、佐賀城下西堀端、湊川、明石、洛北円光寺、石薬師通り、神田橋、千住、水戸の西山荘、駒込水戸家中屋敷、柳沢家霊岸島下屋敷、京都所司代、上野、ほか
(文藝春秋・文春文庫・590円・2011/02/10第1刷・294P)
購入日:2011/12/03
読破日:2011/12/06

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