神剣の守護者


神剣の守護者
神剣の守護者
(しんけんのしゅごしゃ)
智本光隆
(ちもとみつたか)
[戦国]
★★★★☆
単行本

谷津矢車さんの『洛中洛外画狂伝』、大塚卓嗣さんの『天を裂く 水野勝成放浪記』に続く、史実に基づく新感覚歴史エンタメ小説の第3弾。

本書は、軍神楠木正成の末裔・楠木正具を主人公に、織田信長軍の伊勢侵攻を題材に描いた戦国時代小説。史実を抑えながらも、伝奇色が色濃く楽しめる。

「ば、化け物か。なんなのだ、この村は!」
「なんだ。やはり知らずに入ってきたのか?」
 月の光に染まる楠木正具という「異形の男」は、そう言って笑うと地面に落ちた山吹色の袿を拾い肩へと掛けた。
「この楠郷は血肉とて喰らう、悪党の棲家ぞ」

(『神剣の守護者』P.21より)


悪党とは、鎌倉時代に荘園を侵した武装集団で、既存の権力を打ち破るバサラ然とした破壊者でもあった。

 この街では様々な人間が、自由闊達に商いをしている。それは「悪党」と呼ばれた楠木正成が目指していた「国のかたち」と重なるようにも思えた。
「これが、第六天魔王を名乗る者の創りし街か」

(『神剣の守護者』P.62より)


尾張の津島を訪れた正具のことば。安部龍太郎さんは、『「英雄」を歩く』の中で、信長が戦国の覇者になれた要因として、水運の要衝地津島を押さえたことを挙げておられた。本書では、津島をこのような新しい歴史観に基づいて描いていて面白い。

 不意に、正具の太刀の柄に施された紋が、藤吉郎の目に入った。それがどのような由来を持つものか、藤吉郎は知らない。
(太陽と……海の紋?)
 楠木の定紋である菊水が、藤吉郎にはそう見えた。

(『神剣の守護者』P.81より)


武家出身なら常識の菊水の紋と楠木家の名跡が、農民出身の藤吉郎(秀吉)には通じない。ちょうど、戦争を挟んで皇国史観が違うように、この物語の新感覚性が垣間見られる。
うかつなことに、物語の終盤まで、楠木正具を架空の人物と思っていた。想像力豊かな面白い物語に仕上がっているのは、手垢の付かない人物を歴史の表舞台に引っ張り出してきたことによるところが大きい。傍役で、連歌師の里村紹巴や水軍の将・小浜景隆が登場するのも楽しい。

主な登場人物
楠木正具:北伊勢楠郷を治める楠木家当主
服部左近:正具の甥
如月:左近の双子の姉
和田五郎:正具の家臣
楠木正忠:正具の父、先代の当主
北畠具教:南伊勢を治める北畠家前当主。正具の剣の師
北畠具房:北畠家当主
雪姫:具教の娘
木造長政:具教の甥。北伊勢員弁郡を治める
織田信長:尾張の戦国大名
中村藤吉郎:織田家家臣で、後の豊臣秀吉
明智光秀:足利将軍義昭の家臣で、土岐氏の子孫

物語●
神器「草薙剣」の守護者となることが、楠木家の使命となって百二十余年。勢力を拡大し、伊勢に侵攻してくる織田軍を視察するため尾張の津島を訪れた楠木正具は、猿顔の奇妙な男、中村藤吉郎の命を助けた。

織田との戦いが避けられなくなったある日、正具の前に織田家の使者として中村藤吉郎がやってきた。藤吉郎の使命は、「神剣とともに楠木正具を岐阜に連れてくること」。第六天魔王を名乗る織田信長は、天下を託せる人間なのか? 正具はそれを見極めるべく、神剣とともに信長のもとへと向かった……。

目次■序章 清水の訣別/第一章 内宮の雪/第二章 猿面の男/第三章 秋茜/第四章 燎原の舞/第五章 八田城争乱/第六章 雪姫桜/終章 日嗣の剣

情報◇
カバーイラスト:今市子
装丁:井上祥邦(yockdesign)
本文地図:鈴木規之
時代:永禄九年(1566)五月
場所:北伊勢楠郷、楠山城、伊勢神宮、大湊、津島、墨俣城、岐阜、八田城、ほか
(学研パブリッシング・1,200円・2013/12/03第1刷・271P)
入手日:2013/12/20
読破日:2013/12/31

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