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おいち不思議がたり 桜舞う

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おいち不思議がたり 桜舞うおいち不思議がたり 桜舞う
(おいちふしぎがたり さくらまう)
あさのあつこ
(あさのあつこ)
[青春]
★★★★☆

「おいち不思議がたり」の第2作目。『文蔵』連載時のタイトルが「当世侠娘物語 ガールズ・ストーリー◎自立篇」で単行本刊行時に、加筆・修正が加えられて本書のタイトルになる。

主人公のおいちは、前作よりも一つ歳を重ねて数えで十七になるところ。丹地陽子さんの装画イラストが可憐で、怖いものがない輝く娘時代を表現しているように思える。

「十七って歳がどういう歳なのか、わかっているのかい」
「どうって?」
「娘と呼ばれる最後の歳なんだよ」
(『桜舞う』P.70より)

患者の世話ばかりで娘らしいことをしないおいちに、伯母のおうたが心配してもっと娘らしく着飾るように諭す場面。十七を境に、くっきりと線引きされるのだと重々しく告げている。

物語では、少女から大人の女に変わるターニングポイントをおいち、おふね、お松の三人の仲良し娘を登場させることで描いている。同時に主人公おいちの成長を描く青春小説にもなっている。

少女の心理や女性特有の身体のことなど、男性作家だとうまく描けないことがきちんと描かれていて、リアルな感じで物語の世界をより深く味わうことができた。

単なる青春時代小説ではなく、おふねの死の謎(彼女を懐妊させた男は誰なのか)を追ううちに、ある事件にも関係し、ミステリータッチの捕物小説にもなっていき、ストーリーの展開がどんどん気になっていく。

さらに、おいちと松庵の父娘に、おうた・藤兵衛の伯母夫婦も絡み、家族の物語としても楽しめる。とくにおうたの存在(松庵との掛け合いがボケとツッコミになっていて面白い)が物語にユーモアを与え、いいアクセントとなっている。

主な登場人物
おいち:十七歳で、父の診療の手伝いをする
藍野松庵:おいちの父で、深川六間堀町の菖蒲長屋で町医者をやっている
おうた:おいちの伯母(亡くなった母お里の姉)で、八名川町の裕福な紙問屋『香西屋』のおかみ
藤兵衛:『香西屋』の主人で、おうたの夫
おふね:深川六間堀町の呉服問屋『小峯屋』の一人娘
お松:経師屋の娘
友造:お松の父
お清:お松の妹
お良:お松の末妹
お安:おふねの母
お元:『小峯屋』の女中頭
与助:菖蒲長屋の住人で焙烙売り
おしま:与助の女房
山賀貝弦:米沢町に住む高名な町医者
田澄十斗:貝弦の弟子
江上:貝弦の弟子
徳兵衛:搗き米屋の隠居で、松庵の患者
おとい婆:松庵の患者
与造:弁慶縞の着流し姿のならず者
吉助:金通縞のぞろりとした着流し姿のならず者
新吉:飾り職人
仙五朗:相生町の髪結い床の主で、“剃刀の仙”と呼ばれる腕利きの岡っ引

物語●江戸深川六間堀町の菖蒲長屋で町医者をやっている藍野松庵の一人娘のおいちは、父の診療を手伝いながら医者になることを夢見ていた。
幼なじみで親友のおふねが血がいっぱい出て倒れたという連絡を受けて、おふねの実家である呉服問屋の『小峯屋』に向かった。もう一人の友のお松と『小峯屋』の前で出会い、ともにおふねの寝ている奥座敷に行く。

横たわっているおふねの傍らで、高名な流行医者の山賀貝弦が治療をしていた。おふねのお腹に赤ちゃんがいて死産したのだという。そのとき、おふねの身体にも異変が起こり、赤子を包んでいた臓器が破れたらしく大量の出血をしていた。貝弦の治療の甲斐なくおふねは臨終となり死んでしまう。

晩生で祝言も挙げていないおふゆが身ごもるなんてことは考えられないと、しかもそのことを母にも父にもともにも告げようとせずに口を閉ざしていたのはおかしいと、おいちとおまつは、おふゆの不幸な懐妊の謎を追うことに…。

目次■走る。/泣く。/救われる。/夢を見る。/再び走る。/驚く。/戸惑う。/思いを巡らせる。/恥じらう。/考える。/三たび走る。/佇む。/閃く。/謎に迫る。/謎に迫る。/闇に潜む。/立ち向かう。

装画:丹地陽子
装丁:川上成夫+塚本祐子
時代:明示されず
場所:深川六間堀町、北の橋、八名川町、大川の川辺、常盤町一丁目、両国橋、米沢町、ほか
(PHP研究所・1600円・2012/03/29第1刷・317P)
入手日:2012/03/15
読破日:2012/03/17

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