花競べ 向嶋なずな屋繁盛記


花競べ  向嶋なずな屋繁盛記 (講談社文庫)
花競べ 向嶋なずな屋繁盛記
(はなくらべ むこうじまなずなやはんじょうき)
朝井まかて
(あさいまかて)
[捕物]
★★★★☆☆

この物語の主人公は、育種の腕を磨いたイケメン花師の新次。

(略)…育種とは樹木や草花の栽培のことで、種から育てる実生、挿し芽や挿し木、接ぎ木で数を増やしたり、性質を強くする品種改良やさまざまな種類を交配して新種の作出までを行なう。
 徳川の時代に入って本草学が盛んになったことから江戸の植木職人の育種技術は飛躍的に高まり、それを専業とする者が分かれて花師を名乗るようになった。梅や椿、菖蒲などは、後世に残る品種のほとんどがこの時代に誕生し尽くしている。
(『花競べ 向嶋なずな屋繁盛記』P.9より)


物語は、向嶋の種苗屋を営む新次とおりんの夫婦を中心に展開していく。二枚目だが、店での接客が苦手で、花木の育種にだけ専念したい新次と、生来の明るくからりとした気性と手習い師匠をやっていて物知りで頭の回転の速いおりんの夫婦の愛情物語が楽しめる。
夫婦の間にやってきた幼い男の子、雀(本名・しゅん吉)の存在が何ともかわいく、ほのぼのとした思いにさせてくれて、癒しを与えてくれる。

この夫婦に、大店の隠居上総屋六兵衛やその孫の若旦那辰之助、新次の幼なじみの留吉一家が絡んでいく。ヤマ場の一つは、表題になっている「花競べ」のシーン。何かにつけてなずな屋新次の商売の邪魔をする霧島屋の七代目・治親との対立が見どころ。

江戸のガーデニングが堪能できる、江戸園芸小説の代表作の一つにあげられる作品。文庫解説の大矢博子さんが触れられていたが、田牧大和さんの『花合せ』、梶よう子さんの『一朝の夢』と、江戸の園芸を題材に入れた作品が続いていて、いずれも傑作ぞろい。江戸料理小説の次は江戸園芸小説の番か。

主な登場人物◆
新次:向嶋の種苗屋なずな屋の主人で花師
おりん:新次の女房
六兵衛:日本橋駿河町の太物問屋、上総屋の隠居
辰之助:六兵衛の孫で上総屋の跡取り
理世:駒込染井の植木商・霧島屋六代目、伊藤伊兵衛政澄の一人娘
伊藤伊兵衛治親:霧島屋七代当主、元は五百石取りの旗本、久本治定の三男
お豪:理世の母
藤四郎:鉢屋の権鉢堂の手代
留吉:新次の幼なじみで大工
お袖:留吉の女房
松吉:留吉の長男
竹吉:留吉の次男
お梅:留吉の娘
栄助:草花の棒手振り(行商人)
雀:栄助の息子で本当の名は「しゅん吉」。父栄助が旅に出て、なずな屋に預けられる
稲垣頼母:藤堂家用人
吉野:吉原の花魁
雛鶴:吉原の遊女で、吉野の妹分
真島弥十郎:白河藩浪人
おけい:弥十郎の妻
扇屋宇右衛門:吉原の楼主

物語●向嶋の種苗屋なずな屋の花師・新次は、上総屋六兵衛に懇願されて、三年に一度、開かれる「花競べ」に出品することになった。花競べの一位になった名花名木には「玄妙」の称号が与えられ、格式ある花の連に迎え入れられるため、江戸中の花師たちが育種の技を競う花のお祭り。
「花競べ」に出品した新次は、そこでかつてともに修業をした霧島屋の理世と再会する…。

目次■第一章 春の見つけかた/第二章 空の青で染めよ/第三章 実さえ花さえ、その葉さえ/第四章 いつか、野となれ山となれ/終章 語り草の、のち/解説 大矢博子

カバー装画:中川学
カバーデザイン:内山尚孝
解説:大矢博子
時代:寛政九年三月
場所:向嶋、今戸町、隅田川沿いの桜堤、柳橋、浅草寺、両国、駒込染井藤堂家下屋敷、駒込染井、王子稲荷、奥州白河藩下屋敷、南伝馬町二丁目、吉原仲之町、ほか
(講談社・講談社文庫・648円・2011/12/15第1刷・316P)
入手日:2012/01/09
読破日:2012/01/13

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