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寒影

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寒影寒影
(かんえい)
荒崎一海
(あらさきかずみ)
[武家]
★★★★☆

『闇を斬る』シリーズで時代小説ファンの支持を集める著者の長編武家小説。越後長岡藩を舞台に、四季を通して夫婦の絆を情感込めて描いた力作。長岡藩牧野家は、司馬遼太郎さんの『峠』に河井継之助が描かれたことで歴史小説ファンには知られているが、幕末以外は多くは描かれていない。

 城へいたる道筋は、正面の大手口御門と、南の千手口御門と、北の神田口御門しかない。結之介の登城は神田口御門からだ。
 長岡城は、“苧引形兜城(おびきがたかぶとじょう)”とも“浮島城”とも呼ばれていた。姫路城を白鷺城と称するのとおなじく雅名である。
 
(『寒影』P.38より)

 長岡高等学校の第一校歌の一番に、
♪ 我が中学の其の位置は 構は八文字浮島の
  兜の城と名も高き 旧城跡を前に見て
と歌われている。

ちょうど高校の同窓会前後に読んでいたために、地元の地名が随所に登場して懐かしくなり、思い入れが強くなってしまった。

物語は、長岡藩勘定方の倉沢結之介の妻菊乃が、野駆けに出た主君に見初められて城に上がり留め置かれ、夫婦の間が引き裂かれてしまう、何とも切ない設定。

 毎日、勘定所へかよっている。すぐそこの本丸奥御殿に、菊乃はいる。しかし、内堀が、大海よりもなお遠くふたりを隔てている。

(『寒影』P.202より)

“忠孝”という。武士は、親への“孝”よりも主君への“忠”が第一である。いつなりとも死をもって君恩にむくいる覚悟をかため、主命とあらば親兄弟であっても討つ。

(中略)

 君君たらずとも、臣臣たらざるべからず、たとえ主君に徳がなくとも、臣下は忠義をつくさねばならない。

(中略)

 主君の望みとあらば、妻をもさしだす。いまだ子をさずかっていない主君に男児が誕生すれば、お家のためには万々歳である。
 死はいとわない。その覚悟をゆるぎないものにするために、日々研鑽をつんでる。
 だが、菊乃は――。菊乃だけは……。

(『寒影』P.94より)

主君に愛する妻を騙し取られた主人公の倉沢結之介。武士としての忠義、妻への深い愛情、人間としての尊厳、さまざまな思いが交錯し、苦悩する結之介。すぐれた洞察力と行動力、親しい者の協力で、妻を取り返そうと行動する姿が感動的である。

シチュエーションは日本海側の冬の空模様のように重いが、物語は北越の四季が瑞々しく描かれていき郷愁を誘う。

主な登場人物
倉沢結之介:長岡藩勘定方百十石。二十七歳。田宮流居合の遣い手
菊乃:結之介の妻
おすみ:倉沢家の下女
為吉:おすみの夫で、倉沢家の下男
辰次:倉沢家の中間で、おすみの甥
おさち:おすみの孫
綾:結之介の姉
石丸嘉兵次:百石取り大納戸方で、綾の夫
平吉:石丸家の中間
川島鉄平:結之介の叔父
西尾弥十郎:菊乃の兄で、目付
鈴江:弥十郎の妻
おみつ:船宿“笹屋”の女将
万次:おみつの亭主の弟
与助:野菜の振売り
稲垣平助:筆頭家老、二千石
山本帯刀:次席家老千三百石
稲垣太郎左衛門:家老千二百石
牧野平左衛門:家老七百石
須山与市郎:勘定頭
永沼権蔵:鐘捲流の町道場主
原六右衛門:妙見村の庄屋
五助:小間物の担ぎ売り
疋田力造:足軽
佐渡屋久右衛門:廻船問屋
白百合:芸者
牡丹:芸者
梅沢源蔵:嘉兵次の上役
仁兵衛:廻船問屋会津屋の隠居
長岡藩主:二十六歳

物語●長岡藩勘定方百十石の倉沢結之介の屋敷に、馬で野駆けの帰りの主君が立ち寄り、妻菊乃の茶を一服所望する。その二日後、「殿が菊乃の点前を見たい」とおっしゃり、城に上がることになった。主君に見初められた菊乃は、家に帰ることが許されず、そのまま本丸奥御殿にとどめ置かれた…。

目次■第一章 忠義/第二章 波紋/第三章 乱流/第四章 風霜/第五章 覚悟

カバーイラスト:浅野隆広
カバーデザイン:かとうみつひこ
時代:明示されず
場所:越後長岡、今朝白下町、観光院町、長岡城、殿町、正覚寺、御弓町中町、山王稲荷、内川沿い、大手口御門まえ、妙見村、表町、内川下流、ほか
(徳間書店・徳間文庫・657円・2012/04/15第1刷・413P)
入手日:2012/04/13
読破日:2012/04/15

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