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お吉写真帖

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お吉写真帖お吉写真帖
(おきちしゃしんちょう)
安部龍太郎
(あべりゅうたろう)
[幕末]
★★★★☆

横浜の写真家の草分け・下岡蓮杖を描く表題作はじめ、六篇を収録した短編集。『時代小説 読切御免第二巻』(新潮文庫)を読んだら、久々に安部龍太郎さんの本が読みたくなった。

幕末をテーマに西洋のしん技術を支えにたくましく生き抜く実在した人たちの姿を描く短篇集。年代順に並べてあって、時代の動きもよくわかる。

「ヘダ号建造」安政の大地震で沈没したロシアの軍艦ディアナ号の替わりに、洋式帆船を建造することになった戸田村(へだむら)の船大工・虎吉の奮闘ぶりが伝わる、読み味のいい作品。

「お吉写真帖」元絵師の桜田久之助が写真技術を習得し、写真家・下岡蓮杖として活躍するまでを描く。写真家を目指すことになった動機とその後の奮闘ぶりがドラマティック。
「適塾青春記」適塾で学ぶ若者たちを描き、胸が熱くなる青春小説。同じテーマで、ぜひ、長編を書いてほしいところ。

「オランダ水虫」主人公の西周は、哲学という用語の考案者として知られる明治を代表する文化人。同じ津和野出身の森鴎外は遠縁にあたる。価値観や使命が違う西と榎本釜次郎(榎本武揚)ら海軍士官たちが対立しながら、一つの船に乗り、留学に向かう旅を続ける。二百数十年鎖国していた幕府が初めて派遣する留学。想像できないほど、困難があったと思う。

「まなこ閉ぢ給ふことなかれ」女性新聞記者第一号となる、向井春子とその後、大物政治家となる星亨の関係が面白い。

「贋金一件」薩長主導の明治維新に批判的だった、大聖寺藩士たちの行った贋金づくりの顛末を描いた短篇。価値観が一日でひっくり返る混沌の時代らしさが伝わってくる。
血腥い戦闘シーンや時代に散っていた人の死を描くことなく、幕末を感じさせてくれる、安部さんらしい読後感のよい幕末小説だ。

物語●「ヘダ号建造」伊豆戸田村の船大工上田虎吉は、自分の目で洋式帆船を見たくて、下田に入港するロシアの船を見学に出かけた…。「お吉写真帖」下田奉行所に臨時雇いの接待役を勤めながら、時折絵筆を握る絵師の桜田久之助は、下田芸者のお吉に今の姿を描いてほしいと依頼された。お吉は、アメリカ総領事のタウンゼント・ハリスの看護人(内実は侍妾)になることになっていた…。「適塾青春記」適塾で学ぶ長与専斎は、二十一歳になりながらも、恋にはうぶで、片思いの相手、越前福井藩蔵屋敷留守居役の娘・沙恵に思いを伝えられず苦悶していた…。「オランダ水虫」オランダ留学を目前に控えた、西周助(周)は、足裏にごま粒ほどの水疱ができているのを見つけた。ジョン万次郎から英語を学ぶ仲間たちが、オランダ水虫と呼んでいる疾患が1年ぶりに再発したのである…。「まなこ閉ぢ給ふことなかれ」英語が堪能で、『万国新聞紙』で翻訳をするために横浜に移り住んだ星亨。その星を追って、五百石の旗本の娘・向井春子は、横浜まで来たが、冷たく突き放されて途方に暮れているところを、新聞の発行人のベイリー牧師に救われ、教会に住み込み、版下書きの仕事を与えられた…。「贋金一件」加賀前田家の支藩である大聖寺藩は、熱烈な佐幕論をとなえ、薩摩・長州勢との徹底抗戦を主張していたが、鳥羽・伏見の幕府軍の敗報が届くや、一転恭順の意を示した。大聖寺に北陸道鎮撫隊を進駐させた総督の高倉三位から思いもかけぬ難題を持ちかけられた。越後長岡藩を攻めるための、ミニエール銃の弾薬(パトロン)二十万発の供出を命じられたのである。藩の財政破綻しているところでの、二万両にのぼる費用負担である。この窮地に、藩士の石川嶂とその恩師東方芝山が考えついた秘策とは…。

目次■ヘダ号建造|お吉写真帖|適塾青春記|オランダ水虫|まなこ閉ぢ給ふことなかれ|贋金一件|解説 島内景二

カバーイラスト:柴田ゆう
カバーデザイン:斎藤深雪
解説:島内景二
時代:「ヘダ号建造」嘉永七年十月。「お吉写真帖」安政四年。「適塾青春記」安政五年。「オランダ水虫」文久二年。「まなこ閉ぢ給ふことなかれ」慶応四年正月。「贋金一件」慶応四年二月。
場所:「ヘダ号建造」下田、戸田村。「お吉写真帖」下田、横浜。「適塾青春記」過書町、中津藩蔵屋敷。「オランダ水虫」蕃書調所、築地軍艦操練所。「まなこ閉ぢ給ふことなかれ」横浜。「贋金一件」大聖寺。
(文春文庫・619円・04/03/10第1刷・305P)
購入日:04/03/21
読破日:04/03/28

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