後家長屋 町之介慕情
(ごけながや・まちのすけぼじょう)
阿部牧郎
(あべまきお)
[市井]
★★★★☆☆
♪エロチックな時代小説ということで、敬遠していたが、今年はいろいろなものに挑戦したくなり、入手。間口を広げたいと思う。
読み進めると、単なる艶笑話ではなく、連作形式で、町之介が大坂の町に馴染み、本屋として地歩を固め成長していく姿が描かれていてぐんぐん読めた。住民百人のうち、武士は二人ぐらいといわれる町人の町、大坂。その町人の町で陸奥の小藩の下級武士だった町之介が経験するカルチャーショック。文化や価値観の違いに順応していく息子や孫に比べて、奥州訛りが抜けず、武士の人生観を押し付ける母・徳江の描き方が面白い。
町之介と、奔放に性を楽しむ浪花女たちとの交わり合いを通して、大坂の経済合理主義や建て前なしの健全な本音主義が読み取れる。バイタリティを感じて元気になる一冊だ。時代小説で、取り上げられることの少ない大坂の町の風物や風俗がビビットに描かれている点も注目したいところ。とはいえ、土地鑑がないので、うまくイメージできないところもあるが…。
物語●大坂島之内鰻谷にで貸本屋兼本屋「泰平堂」を営む町之介は、27歳の若さで、もとは陸奥三戸藩で五十石取りの下級武士であった。父親が酒席で無礼を働いた豪商の手代を斬り、これがもとで切腹、家は取り潰しにあった。事件のおり、藩の大坂蔵屋敷に勤めていて、そのまま浪人。三十両を借りて、母と子を大坂に呼びよせ、貸本屋となった。「いつかは弘前の豪商を上まわる富を貯えて、そいつを弘前から追っ払うの」を夢に、商人の町・大坂で、武士を捨てて町人になり、商いの世界に飛びこんだ町之介には、戸惑うことばかりだった。本屋でだまって客を待っていても成り立たないと、母に店番を任せて、本を担いで朝から晩まで外回りをする町之介は、大きな塗物屋の内儀と娘に、本の注文を受けた…。
目次■艶本/縁結び/後家長屋/抓られた女/間男/筆おろし/なんでもあり/解説 東郷隆