将軍の弟たちの領地、館林はツツジの花盛り

将軍を蹴った男 松平清武江戸奮闘記ゴールデンウィークのとある一日、日帰りで群馬県の館林を訪れました。

館林市は、群馬県の東南部に位置します。
訪れたときは、4月の終わりでツツジの花にあふれていました。
地元の人たちが、「花山」と呼ぶ、つつじが岡公園のツツジの花も満開で、観光客も多く大変な賑わいでした。

つつじが岡公園のツツジ
江戸時代、徳川四天王の一人、榊原康政によって館林城が整備されます。その後、徳川綱吉が五代将軍に就く前に、二十年にわたり城主をつとめたように、幕府の重要な拠点です。
綱吉と同じように、将軍の弟として、館林城主となった人物に、松平清武がいます。
清武は徳川綱重の次男に生まれながら、生母の身分が低いことから、家臣の越智喜清に養われていました。宝永四年(1707)に館林城主となっています。

この松平清武を主人公にした時代小説に、誉田龍一さんの『将軍を蹴った男 松平清武江戸奮闘記』があります。

 清武は手を出して制した。
「では、将軍を継ぐのはそなたしかおらぬのは分かるであろう」
「ですが、わたしは今は上野館林藩、五万四千石の藩主に過ぎません。しかも、その藩主も……」
「ほほほほ」
 天英院が突然笑い出した。
(『将軍を蹴った男 松平清武江戸奮闘記』P.52より)


七代将軍家継が危篤状態に陥ったとき、家宣の正室天英院は八代将軍の候補に清武を考え、将軍職に対して関心が薄かった清武を口説き落とすシーンが描かれていました。

六代将軍家宣の実弟ながら、家臣に育てられてその家督を継いでいたこと、当時五十四歳と高齢だったこともあり、将軍になれなかったとされています。

誉田さんの作品では、綱吉が一旦廃藩したときに壊した館林城を築城し直すために、清武が百姓に重税を強いて、一揆を起こしてしまった失政も将軍に就かなかった理由の一つとして描いていました。
長屋に暮らしながら悪人退治をする時代ヒーローらしい設定です。

館林駅からつつじが岡公園へ向かう途中に、館林城跡があり、跡地の一角に向井千秋記念子ども科学館があります。舘林は、宇宙飛行士の向井さんの出身地です。

また、向井千秋記念子ども科学館のすぐ隣に、田山花袋記念文学館があります。
花袋は旧館林藩藩士の息子として、館林に生まれました。
『蒲団』『田舎教師』などの代表作により自然主義の文学者として知られていますが、晩年には『源義朝』など歴史小説も発表しています。
花袋の旧居は館林市第二資料館内にあります。
5月13日が命日「花袋忌」で、無料開館日になっています。

群馬県館林市城町1-3


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『将軍を蹴った男 松平清武江戸奮闘記』

館林市つつじが岡公園ガイド
田山花袋記念文学館|館林市教育委員会 文化振興課

東海道五十三次の二十三番目の宿場、島田

蓬莱橋にてゴールデンウイーク期間中に、親戚が住んでいる、静岡県島田市を訪れることを計画しています。

島田市は、静岡県の中部でやや西寄りに位置して、市内を大井川が流れています。
江戸時代、島田は、東海道五十三次の二十三番目の宿場として栄えました。
大井川の川越(かわごし)を控え、旅の難所ともいうべきところです。
この機会に、島田の歴史に触れてきたいと思います。

歌川広重『東海道五十三次 嶋田』
島田宿の増水による川留めと川越を描いた時代小説には、山本一力さんの初期の傑作短篇集、『蒼龍』(文春文庫)に収録された「長い串」があります。

そのほか、池波正太郎さんの『鬼平犯科帳(一)』の「血頭の丹兵衛」の話に、島田宿での捕物の様子が描かれています。

 島田宿は、昔から東海道の名駅であるし、大井川をひかえているだけに、宿場も繁盛をきわめている。このようなところに盗賊の隠れ家があるのも妙なものだが、粂八にいわせると、人家が多い盛り場ほど絶妙な隠れ場所だということになるのだ。
 宿場の本通りを大井川へ向ってすすみ、代官橋の手前を北へ切れこんだ道がまがりくねって大井大明神の鳥居前へ達する。
(『鬼平犯科帳(一)』「血頭の丹兵衛」より)


また、江戸時代には幕府の江戸防衛上の目的から架橋は許されておりませんでしたが、明治十二年に木造の橋、蓬莱橋(蓬莱橋)が架けられました。
897.4mの蓬莱橋は、たびたび崩落・流失の被害に遭いながらも、都度修復・復旧され、現在も利用されています。

蓬莱橋が架橋された当時を描いた短篇に、諸田玲子さんの『蓬莱橋にて』がおすすめです。東海道の宿場を舞台に、運命のほころびに翻弄される男女を哀歓こめて描いた短篇集。

島田市を外国人に紹介するなら、こちらもどうぞ。

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『蒼龍』
『鬼平犯科帳(一)』
『蓬莱橋にて』

昔は川越え、今は飛行機で?東海道の宿場町・静岡県島田市の魅力を英語で語ろう!|GOTCHA!(ガチャ!)

越後長岡開府400年と牧野忠成の生き様、「常在戦場」

常在戦場2018年(平成30年)、新潟県長岡は「開府400年」を迎えます。
これは、越後国長岡藩藩祖の牧野忠成(まきのただなり)が、越後長峰五万石を経て、元和四年(1618)に、長岡藩主になった時から始まります。
長岡藩は、以来牧野家の統治により明治維新まで250年にわたって生き残っていました。

牧野忠成のエピソードは、火坂雅志(ひさかまさし)さんの時代小説、『常在戦場』(文春文庫)に収められています。

家康の周囲には異能異才の者たちがいた。行商人ワタリの情報と絶対的な忠義で仕えた鳥居元忠、幾多の苦難に逢いながら男姿で井伊家の誇りを守り抜いた井伊直虎、馬上の局と呼ばれ戦場にまで赴いた阿茶の局、「利は義なり」の志で富をもたらした角倉了以など七人の家康の家臣を描く短篇小説集。


慶長五年(1600)、牧野忠成は関ヶ原に向かう徳川秀忠率いる徳川軍三万八千人に、父康成と加わっています。
ところが、信州上田城に籠る真田昌幸・信繁に対して、功を焦り軍令違反の失態を犯し、その末に出奔します。

「戦いは、槍働きのみにえするものではない。まして功名も、合戦場のみに落ちているものではない。家門の恥辱をそそぎたくば、手柄を挙げよ、忠成」
「しかし、天下分け目の合戦はすでに終わりました。もはや、手柄を挙げる場は……」
「たったいま申したではない、功名の機会は、そなたがその気になればどこにでも転がっておると」
(『常在戦場』「常在戦場」P.316より)


物語では、出奔から戻った忠成が家康に声をかけられ、以来死ぬ気になって「常在戦場」の精神で、汚名返上に活躍する姿が描かれています。

「常在戦場の精神」はその後も忠成が整備した城下町長岡で人々の心に生き続けています。
幕末維新や太平洋戦争による長岡空襲の戦禍や新潟県中越地震などの天災に見舞われながらも不死鳥のように復興を果たしてきたことにつながっているように思われます。

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『常在戦場』


長岡開府400年記念事業実行委員会の公式ホームページ|ROOTS400

「朝日時代小説大賞」受賞作の電子版が期間限定無料公開

暴れ宰相 徳川綱重 江戸城騒乱朝日新聞出版では、3月18日(土) 0時より2週間限定で、『慶応三年の水練侍』をはじめ、「朝日時代小説大賞」出身作家による、この春おすすめの時代小説3作品の電子版を、Kindleストア、楽天kobo、BookLive、ReaderStore等の電子書店にて無料公開するキャンペーンを実施します。

【対象作品】
天野行人さんの『花天の力士 天下分け目の相撲合戦』(朝日新聞出版刊)〈第8回最終候補作〉

藤原道長が栄華を極めた平安時代。政敵の右大臣藤原顕光の姦計にはめられた左大臣道長は、例年内裏で行われる相撲節会において、それぞれが選んだ最強の相撲人による決闘を約束させられる……。


片山洋一さんの『島津の陣風 義久の深謀、義弘の胆力』(朝日新聞出版刊)〈第6回優秀作受賞者最新作〉

慶長五年(1600)九月十五日、関ケ原。勝利を確信した家康本陣めがけて、島津義弘率いる千五百の隼人たちが駆け抜けた!  世にいう“島津の退き口”である。生きて薩摩に戻ったのは僅かに八十余名。改易を狙う徳川と本領安堵を図る島津との虚々実々の駆け引きが始まる……。


木村忠啓さんの『慶応三年の水練侍』(朝日新聞出版刊)〈第8回大賞受賞作〉

慶応三年、津・藤堂家の砲術師範・市川清之助、突如として水術試合を要求される! 十七年前の事故で父親を亡くした谷口善幸は、清之助を逆恨みして、水術訓練時の度重なる嫌がらせに加える。清之助と善幸の遺恨は、水術(競泳)決着に……。


三者三様の魅力に満ちた、新鋭作家の時代小説が味わえる、楽しみな企画です。電子版(電子書籍)が初めてという方もお試しいただくチャンスです。

【実施書店】
3月18日(土)0時配信開始、詳細は各書店サイトをご覧ください。

・Kindleストア
・楽天kobo
・BookLive
・ReaderStore

キャンペーン対象の電子版には、「無料版」「期間限定 無料お試し版」と本の画像に明記されていて、通常の電子版と価格表示が違っているので、注意してお選びください。

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『花天の力士 天下分け目の相撲合戦』(Kindle版 期間限定無料お試し版)
『島津の陣風 義久の深謀、義弘の胆力』(Kindle版 期間限定無料お試し版)
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美人女将お園の料理が人々の心を癒す、江戸人情料理帖。

縄のれん福寿 細腕お園美味草紙有馬美季子(ありまみきこ)さんの文庫書き下ろし時代小説、『縄のれん福寿 細腕お園美味草紙』(祥伝社文庫)を紹介します。

薄切りにして煮た蛸を、炊き上がる直前の飯に混ぜ込んで、汁を掛ける。それに刻んだ大葉を散らせば、ほんのり桜色に染まったご飯の出来上がり。
縄のれん〈福寿(ふくじゅ)〉を営む美人女将のお園は、優しさ溢れる料理で訪れる人々の心を癒す……。


時代は文政五年(1822)、日本橋小舟町の通称“晴れやか通り”にある、小料理屋〈縄のれん福寿〉。福寿は、女将のお園が女一人で切り盛りをしていて、常連客たちで賑わうお店です。

お園は二十歳の時に嫁に行ったが、三年も経たずに亭主だった料理人の清次が失踪するという過去を持っています。
理由がわからない清次の失踪で、お園はやり場のない思いから自分を責める日々を送り、心労と厳しい寒さがたたり、ある日、遂にからだを壊して道端で倒れてしまいます。
このまま死んでしまってもいいとさえ思ったお園を、通りすがりの見知らぬ老婆が助け、からだを優しく撫でて温め、夜鳴き蕎麦を御馳走してくれます。

 老婆は名前を告げずに去っていったが、温かな手は忘れたことがない。
 そして、老婆に御馳走になった一杯の蕎麦が、お園を変え、力をくれた。
――食べ物は、ただお腹を満たすだけのものではない。心に力を与えることだって出来るんだ。私は、あの蕎麦に力をもらった。
(『縄のれん福寿 細腕お園美味草紙』P.27 より)


失踪から一年が経った頃にお園は日本橋へ来て、仕舞屋を借り受けて店〈福寿〉を始めました。〈福寿〉を開いて二年が経った頃、店の前で倒れた若い娘・お里を助けるところから物語は始まります。

そして、今日も福寿には、悩みを抱えた者や生きることに苦しさを覚えた者、癒しを求める者が集います。
お園の料理は奇をてらったような独創的なものではありませんが、ひと手間かけて工夫を凝らし、愛情を込めて作られています。その想いは客たちの舌と胃袋を通して、心にすっとしみわたっています。料理の描写ばかりか人情描写も楽しみな江戸料理帖です。

2016年11月に刊行した本書が、著者の有馬さんの時代小説のデビュー作。2作目の『さくら餅 縄のれん福寿』もこの2月に刊行されたばかりで、今、気になる時代小説シリーズの一つです。

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『縄のれん福寿 細腕お園美味草紙』
『さくら餅 縄のれん福寿』