津田助広二尺三寸五分を手に凄腕与力が、本所深川を守る

隼人始末剣 最強の本所方与力 大岡暗殺誉田龍一(ほんだりゅういち)さんの『隼人始末剣 最強の本所方与力 大岡暗殺』がコスミック・時代文庫から刊行されました。

本所方与力、上村隼人は、大名屋敷も多い本所や深川を取り仕切る、この地域の事実上の実力者で、ここでは将軍さまのような存在であった。それゆえ、人々はその苗字を重ね合わせて「上さま」と呼んで親しんでいた。
そんな上さまは、時の南町奉行で上役の大岡越前守とも昵懇の仲。型破りな捜索で必ず下手人を挙げる隼人の手腕を、大岡は大いに買ってくれたのだ。
その信頼する大岡が討たれた。との報せが入った。現場に駆け付ける隼人は、そこで驚愕の光景を目にする。果たして大物奉行を狙った黒幕とは……!?


『隼人始末剣 最強の本所方与力』に続く、第2巻。本シリーズの主人公は、“本所の上さま”と呼ばれる、南町奉行所本所方与力の上村隼人(うえむらはやと)です。

本所にはかつて本所奉行が置かれていましたが、正徳三年(1713年)に廃止されて、町奉行所の下に「本所方」(与力1名、同心2名)が置かれました。

隼人の下には、五十嵐貴昌と中野正三郎の二人の同心が付けられて、本所・深川一帯を取り仕切る岡っ引き、赤裏の勘太とともに下手人の探索を行います。

本書の魅力は、深川佐賀町の船宿「鹿屋」に入り浸って、二人の部下と岡っ引きとともに型破りな探索を続け、津田助広二尺三寸五分を抜いて悪を斬り、難解な事件の謎を鮮やかに解決する隼人の活躍ぶりです。

「ま、町方が旗本を捕縛はできないはずだ……」
「やかましいや」
 隼人が啖呵を切った。
「寝言は寝て言いやがれ」
 隼人は一歩踏み出した。
「てめぇらのような鬼畜を大掃除するのに、町方も権限もヘチマもねぇ」
 隼人は十手をかざした。
「この本所の上さまが、退治してやらあ」
(『隼人始末剣 最強の本所方与力 大岡暗殺』P.93より)


その口舌も何とも痛快で、コスミック・時代文庫らしい明朗快活な時代小説です。
馴染みの関係である「鹿屋」の女将・お雪との関係とともに、隼人のさらなる活躍ぶりが気になるシリーズです。

◎書誌データ
『隼人始末剣 最強の本所方与力 大岡暗殺』
著者:誉田龍一
コスミック出版・コスミック・時代文庫
第1版第1刷:2018年2月25日
ISBN978-4-7747-1406-6

カバーイラスト:渡邉文也
266ページ

●目次
第一話 消えた三万両
第二話 濡れ衣を晴らせ
第三話 大岡暗殺

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『隼人始末剣 最強の本所方与力 大岡暗殺』(誉田龍一・コスミック・時代文庫)



「2018年2月の新刊 下」をアップ

焔の剣士 幕末蒼雲録2018年2月21日から2月28日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2018年2月の新刊 下」を掲載しました。

今回取り上げるのが、角川文庫です。

新美健さんの『焔の剣士 幕末蒼雲録』は、狂瀾怒涛の幕末に、京都島原遊郭に育ち、生まれながらに人を斬る術を身に付けた美少年・椿が活躍する『幕末蒼雲録』シリーズの第2弾です。

激動の幕末。南朝の皇子との噂がある美貌の剣鬼・椿は、新撰組や西郷吉之助から、倒幕の駒として狙われていた。そんな中、椿の元に遊女志望の女、早咲がやってくる。彼女は色気もなく芸事もできないが、抜群の剣の腕を持っていた。一方、“人斬り”の河上彦斎は、長州兵を攻め込ませるため二条城を燃やそうとしていた。椿と早咲はそれを阻止するため、現地へ向かう……。


「峰隆一郎の遺伝子を継ぐ幕末剣鬼伝、シリーズ第2弾!」というキャッチコピーに惹かれました。
峰さんは、「人斬り弥介」シリーズ、「柳生十兵衛」シリーズなどを持つ、ハードボイルドタッチの時代小説の作家です(隆慶一郎さんと間違えて本を買ってしまったことがあります)。

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『幕末蒼雲録』(新美健・角川文庫)
『焔の剣士 幕末蒼雲録』(新美健・角川文庫)
『人斬り弥介 その一』(峰隆一郎・集英社文庫・Kindle版)

→2018年2月の新刊 下




“吉宗の隠密”稲生新九郎、信州から伊勢路を行く

巡見使新九郎 無双の拝領剣 将軍の夢山田剛(やまだたけし)さんの『巡見使新九郎 無双の拝領剣 将軍の夢』がコスミック・時代文庫から刊行されました。

「巡見使として余の名代となり、諸国を巡って来てくれ」
将軍吉宗直々の命を受けた稲生新九郎は、改革の成果を見定めたいという願いを叶えるべく、江戸を出立。気品あるいで立ちで凛としてたたずむ旅装の新九郎は、御庭番の川村源右衛門、忍びの篝、三浦左平次の三人を供に従えて、中山道を信州諏訪に向かった……。


「〇〇さんって、時代劇のサイトをやっているんですよね?」
と時折、知人から声を掛けられることがあります。その都度、「時代小説のほうなんですよ」とやんわりと訂正しています。
時代劇は嫌いではなく見る方だと思いますが、そこまで範囲を広げる余裕がないのが正直なところです。

さて、本書は、将軍吉宗のご落胤で、目付から北町奉行になった稲生下野守の次男として育てられた、新九郎が主人公を務める時代小説です。

新九郎は、人の真を最後まで信じようとする男ながら、一分の真も持ち合わせぬ邪悪には、怒りの剣を振るいます。吉宗から拝領した備前国の名刀、小龍景光(こりゅうかげみつ)を手に。

貴種の若者が高位に就いている父に、公には裁けない市井の悪を私的に退治する勧善懲悪のストーリーで、痛快で人情味あふれる物語は古き良き時代劇に通じる醍醐味があります。

『巡見使新九郎 無双の拝領剣』に続く、第2巻では、新九郎はまず信州の高遠内藤家を訪れます。ここで、江島生島事件で高遠に流された元大奥年寄江島に会います。
事件で江島の動向を詮索していたのが、当時目付の稲生(新九郎の父)だったことから、新九郎の胸の裡には葛藤がありました。

高遠を訪れる十日余り前に、新九郎の姿は信州諏訪家の城下にありました。
諏訪家は、諏訪湖のほとりに建つ高島城を居城にする、譜代三万石。当主は諏訪因幡守忠林で三十四歳、学才豊かな藩主として知られていました。

 城は、本丸、二之丸、三之丸が一直線状に並んでいる。
 天守をはじめ主要な建物の屋根は、瓦葺きではなく珍しい杮葺きである。
 本丸の東側と南側いは武家屋敷が広がり、その武家屋敷をはさんでひっそりとたたずむのが南之丸である。
 この時代、諏訪は流刑の地で、その南之丸は流された者を幽閉する場所だった。
 古くは、徳川家康の六男、松平忠輝が、近くは浅野浪人に討ち取られた吉良上野介義央の外孫でのちに養嗣子となった吉良左兵衛義周が幽閉された。
(『巡見使新九郎 無双の拝領剣 将軍の夢』P.29)


新九郎は、この諏訪で富くじを巡る悪事を解決し高遠で江島に会います。その後、伊勢神宮を目指して、伊那街道、飯田街道を経て、東海道を西に向かいます。

次の活躍の場が伊勢亀山城下です。
物語に描かれている当時の伊勢亀山の城主は、譜代五万石、板倉周防守勝澄で十八歳。
ここでの事件には老人介護の問題や猟奇趣味などが背景に描かれます。

本書が時代劇と違う面白さは、史実や時代考証、舞台の説明を丁寧に織り交ぜている点にあります。その地で起こる悪事も、絵空事ではなく、現代に通じるようなリアリティがあって、物語に引き込まれます。


◎書誌データ
『巡見使新九郎 無双の拝領剣 将軍の夢』
著者:山田剛
コスミック出版・コスミック・時代文庫
初版発行:2018年2月25日
ISBN978-4-7747-1408-0

カバーイラスト:浅野隆広
335ページ

●目次
序章 面影
第一話 一徹同心
第二話 だまし舟
第三話 黒編笠の刺客
終章 若鷹のごとく

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『巡見使新九郎 無双の拝領剣』(第1作)(山田剛・コスミック・時代文庫)
『巡見使新九郎 無双の拝領剣 将軍の夢』(第2作)(山田剛・コスミック・時代文庫)



「2018年2月の新刊 中」をアップ

暁天の志 風の市兵衛 弐2018年2月11日から2月20日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2018年2月の新刊 中」を掲載しました。

今回取り上げるのが、祥伝社文庫です。

辻堂魁さんの『暁天の志 風の市兵衛 弐』は、「風の市兵衛 弐」と付いているように、シーズン2の第1作となります。“算盤侍”唐木市兵衛が活躍する大人気シリーズがどのような展開を見せていくか、「風の市兵衛 弐」に妄想が膨らみます。

今村翔吾さんの『鬼煙管 羽州ぼろ鳶組』は、京都を未曾有の大混乱に陥れる火付犯とそれに立ち向かう男たちを描いたシリーズ第4弾です。

火消・羽州ぼろ鳶組の松永源吾と京都西町奉行の長谷川平蔵(鬼平の父、長谷川宣雄のほう)らがどのように、火付犯と戦うか、興味が尽きません。

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『暁天の志 風の市兵衛 弐』(辻堂魁・祥伝社文庫)
『鬼煙管 羽州ぼろ鳶組』(今村翔吾・祥伝社文庫)

→2018年2月の新刊 中



大地震、大火、大雪、御家騒動。藩を守るため戦った小栗美作

雪に咲く村木嵐(むらきらん)さんの『雪に咲く』がPHP文芸文庫から刊行されました。

江戸に幕府が開かれて五十年余り。後に越後高田藩筆頭家老になる小栗美作は、大地震の後処理で手腕を発揮し、藩主・松平光長の信頼を勝ち取る。しかし光長の嫡子が亡くなると藩内は二つに割れ、御家騒動へと発展。そんな高田藩を取り潰そうと幕府は虎視眈々と機会を窺っていた……。


寒波が襲来して、日本海側を中心に雪が続いています。東京でも日陰では先週降った雪が残っていています。雪に打ち克つような本を読みたいと思い、この本を手にしました。

主人公は、越後騒動の中心人物、越後国高田藩の筆頭家老小栗美作(おぐりみまさか)です。
藩主の松平光長は、家康の次男秀康を祖とする越前福井藩の2代藩主松平忠直の子で、忠直が乱行を理由に改易になった翌年に、越後高田26万石が与えられています。
将軍家の兄筋で本来なら将軍を継ぐべき立場にあって、制外(幕府の処罰対象外)の家という意識を強く持っていました。

物語は、慶安三年(1650)、父忠直が配流先で亡くなり、藩主光長に引き取られた三人弟妹(市正、大蔵、お閑)と、美作や同じ家老の嫡男の荻田本繁、片山主水らが御目見をするところから始まります。

その場で、美作は、光長にお閑を妻にほしいと願い出て許されます。
家康の血筋であるお閑と夫婦になったことで、美作のその後の人生が大きく変わっていきます。

「雪国は頑固者が多いと聞く」
 高田は一年の三が一を雪に閉ざされる。そのあいだは土も日差しも見ることができず、他国で何が起きても音さえ届かない。雪のないときでも、江戸までは早飛脚で三日もかかる。
「越後には、およそ頑固者はおりませぬ。ただ辛抱強いだけでごあいます。こたびも必ず、城下はすぐもとに戻ります」
 我を通していては、あの雪は掻けない。高田には降るぼた雪はすぐ根雪になるが、遠くの峰が白く染まりはじめると、来るなら来いと腕が鳴る。見渡すかぎり雪に埋められても、高田では黙々と雪を掻いて春を待つ。
(『雪に咲く』P.80より)


美作は、高田を襲った大地震の復興のために幕府から五万両を借り受けたり、河村瑞賢を招いて行った用水路の開削と新田の開墾、直江津の港の整備を行なったり、藩政で大いに治績を挙げた有能な家老でした。

その一方で、藩主の妹を娶って豪奢な生活をしていたことや、藩士の禄を地方知行制から蔵米制に改めたり、実力本位で家臣を登用したりしたことから、評判を悪くして、重臣たちを中心に「御為方」という反対勢力を藩内につくるようになりました。

藩を守るために次々に降りかかる難題に対峙する美作。同じ家老で朋輩の荻田本繁との友情、制外の家・高田藩を監視する酒井雅楽頭の女間者も絡んで、物語はクライマックスの越後騒動に。

雪の中に見事に咲いて散った花に、不覚にも感動の涙がこぼれました。

◎書誌データ
『雪に咲く』
著者:村木嵐
中央公論新社・PHP文芸文庫
第1版第1刷:2018年1月23日
(単行本『雪に咲く』2013年12月 PHP研究所刊)

装画:ヤマモトマサアキ
装丁:芦澤泰偉
解説:細谷正充

●目次
第一章 銀の雨
第二章 春、東西
第三章 高田大地震
第四章 猫じゃらし
第五章 雁木道
第六章 騒動
第七章 冬ふたたび
第八章 雨の降る

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『雪に咲く』(村木嵐・PHP文芸文庫)