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江戸の女性記者、田沼意知殺害の真相に迫れるか?

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絵草紙屋万葉堂 鉢植えの梅篠綾子(しのあやこ)さんの文庫書き下ろし時代小説、『絵草紙屋万葉堂 鉢植えの梅』が小学館文庫より刊行されました。

「更紗屋おりん雛形帖」シリーズで注目される、篠さんの最新シリーズです。
本書の主人公、絵草紙屋の娘・さつきは、読売(瓦版)の発行人兼記者として、老中田沼主殿頭意次の嫡男山城守意知殺害の真相を追います。

母と兄とさつきで営む万葉堂。体調を崩して寝込んだ母・登勢の容体が回復しないのを心配したさつきは、蘭方医に診てもらおうと伝手を探す。ある時、偶然居合わせた若殿と呼ばれる侍が紹介状を書いてくれたおかげで、大槻玄沢に母を診てもらうことができた。その侍は、老中田沼意次の嫡男である田沼意知だった……。

さつきは、商いを二の次にして絵を描いている兄・喜重郎に代わり、絵草紙屋万葉堂を切り盛りする母登勢を助けて、店を手伝っていました。

ところが、母登勢が突然、体調を崩して寝込みます。その病状にかかりつけの漢方医が匙を投げたために、さつきは蘭方医を探すことになります。

さつきは、知り合いの侍・栗橋靱負の紹介で、偉い人にコネのあるという旗本佐野善左衛門を訪れます。そこで、善左衛門からは蘭方医の紹介は出来ないと言われ、代わりに田沼山城守(意知)に家系図を表装して渡したという話を聞きます。

その後、さつきらは、蘭医杉田玄白の『解体新書』を発行した地本問屋と付き合いのある地本問屋を訪ねました。そこに偶然居合わせた田沼山城守から、蘭方医大槻玄沢を紹介されました。

「お前だけに言っておかなきゃならない話なんだよ!」
 お登勢は強い口調で言った。
「な、何の話なのよ、いったい――」
 さつきは仕方なく母の枕元に近寄ったが、本当は目を合わせるのも恐ろしかった。だが、どういうわけか、健康だった頃よりもずっと力強い母の目から、目をそらすことができなかった。

(『絵草紙屋万葉堂 鉢植えの梅』P.71より)

さつきは余命わずかな病床の母から、出生の秘密を打ち明けられます。

それから半月後、お登勢はひっそりと亡くなります。
さつきと喜重郎は、京橋から川向こうの深川へ店を移しますが、お客はほとんど来ずに貯えを減らすばかりでした。

さつきは、家業立て直しのために読売(瓦版)の発行を考えます。
そんな折に、田沼山城守が千代田の城で刺殺されたという事件を知り、読売で事件の真相を伝えようと心に決めました。

「神田明神で私が『書くな』と脅された時、相当怖い思いをしただろうに、さつきちゃんは書くと言った。さつきちゃんは勇気があると俺は思った。だから、あえて止めなかった。だが、言葉が人を傷つけ、その人の運命を捻じ曲げていく怖さは、あの時の比ではない。だから――」
 伝蔵は一呼吸置いてから、一気に続けた。
「今、目の前で見たものを怖いと思うのなら、読売を書くのなどやめなさい」

(『絵草紙屋万葉堂 鉢植えの梅』P.281より)

本書には、さつきと喜重郎の幼馴染みとして、浮世絵師の岩瀬伝蔵が登場します。後の戯作者・山東京伝です。伝蔵の妹およねも、さつきの親友として重要な役割を演じています。

「この人のことは攻撃してもいい、という風向きが一度でもできてしまうと、人は待ち構えていたかのように、悪口を言い始める。その人が悪くなくても、その人がどんなに地位の高い人でも、いや、その人を高い地位から引きずり下ろせそうになった時こそ、人は牙をむくのだ」
 それが、今の田沼意知に対する人々の態度そのものであった。

(『絵草紙屋万葉堂 鉢植えの梅』P.281より)

殺された山城守への反感と悪意を抱く群衆を見て、真実を伝えたいと読売の発行を目指すさつきに、伝蔵は忠告しました。

本書の面白さは、迷ったり、心を乱しながらも、女性記者として真実に迫るさつきの心情が描かれている点にあります。伝蔵への秘かな恋心も描かれていて、胸キュンです。
そして、刺殺事件の陰に、大物の陰が垣間見られて、時代ミステリーとしても楽しめます。

さつきの二回目の読売はどうなるのか、次回作への興味がますます湧いてきました。

◎書誌データ
『絵草紙屋万葉堂 鉢植えの梅』
出版:小学館・小学館文庫
書き下ろし
著者:篠綾子

カバーデザイン:bookwall
カバーイラストレーション:苗村さとみ

初版第一刷発行:2018年5月13日
630円+税
311ページ

●目次
第一話 鉢の木の侍
第二話 深川の絵草紙屋
第三話 夜の梅見
第四話 殿中刺殺と蔓延る悪意

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『絵草紙屋万葉堂 鉢植えの梅』(篠綾子・小学館文庫)

『墨染の桜 更紗屋おりん雛形帖』(篠綾子・文春文庫)