奥方様は猫!? ファンタスティックな大江戸にゃんこ小説


にゃん! 鈴江藩江戸屋敷見聞帳白泉社より刊行された、あさのあつこさんの時代小説、『にゃん! 鈴江藩江戸屋敷見聞帳』を紹介します。

本書は、2014年11月刊の白泉社招き猫文庫『てのひら猫語り』所収の「鈴江藩江戸屋敷見聞帳 にゃん!」および「WEB招き猫文庫」の2015年2月~2017年9月公開の連載をまとめた時代小説です。

招き猫文庫は、誰もが憧れるようなヒーロー、ヒロインを主人公に据え、「時代小説」というイマジネーション拡がる世界の中で、エンターテインメントの未来を切り拓くというコンセプトで、若い読者に向けた新しいタイプの時代小説を刊行する文庫レーベルです。
少女マンガ出版をリードする白泉社らしく、斬新なカバーイラストレーションも魅力でしたが、現在は残念ながら休刊中です。
本書は、その招き猫文庫のコンセプトを継ぎ、単行本での刊行となります。

鈴江藩の江戸屋敷に奉公することになった呉服商の娘・お糸。仕えた正室・珠子には猫の化身疑惑が!? しかも屋敷内は権謀術数が飛び交い、何やら不穏な空気。一目惚れした殿さまを守りたい…そんな珠子の心意気に打たれ、お糸も立ち上がる!


本書のヒロイン・お糸は江戸・本所深川随一の豪商・呉服屋『きぬた屋』の娘、器量よしで人柄もよいが、常人では見られぬものが見えるという特異な能力を持っています。
そして、それゆえに周囲から一風変わった娘とみられて縁談もなかったことから、行儀見習いと世間から姿を消すために、三万石の小藩・鈴江藩の江戸屋敷に上がることになりました。

「お糸」
 珠子がお糸の手首を摑んだ。妙に柔らかい。そして、温かい。
 え?
 目を瞠った。手首を摑んでいるのは人の指ではない。白い毛がびっしりと生えている。
 えええっ?
 瞬きをして、珠子を見る。
 桔梗色の眼をした三毛猫がにんまりと笑っていた。
「にゃん!」
 短い泣き声が聞こえた。
 ね、猫?

(『にゃん! 鈴江藩江戸屋敷見聞帳』P.20より)


お糸は、屋敷内に初めて足を踏み入れたとき、妖しの気配を感じました。そして、奥方の珠子の御前に呼び出されてお目見えをした際に、珠子が猫の化身であることに気付きます。

珠子は、由緒ある猫族なんだけどちょいと不思議な一族の姫で、桜見物の際に殿さまに一目惚れしたことから、六千年近く生きている父のおかげで殿さまの妻になり、一人娘の美由布姫まで設けて、江戸屋敷で暮らしています。

「よいよい。おまえの手妻はいつ見ても楽しい。如何じゃ、お糸」
「はあ……如何も刺蛾(いらが)もあったもんじゃありませんよ。天がおっこちてきても、こんなに驚かないです。まったく、おったまげるったぁこのことですね。はぁ、おったまげた。おった髷なら誰が結う。おったま下駄なら誰が履くってね」

(『にゃん! 鈴江藩江戸屋敷見聞帳』P.58より)


子どものころに近所の香具師から口上を教えてもらったお糸は、何かの拍子に、染み付いた口上がポロリと零れたりします。今は、女中おさけの披露した手妻(手品)に驚いた拍子に飛び出してしまいました。

風変わりな屋敷ですが、お糸は奥方の珠子や奥を取り仕切る上臈の三島に気に入られて、お糸も不思議で可憐な女主人を守るためなら、どんな苦労も厭わないという心持ちになっていきます。

珠子と夫、鈴江藩主伊集山城守長義への一途な愛や美由布姫の愛らしさに幸福感に包まれた鈴江藩に、不穏な空気が漂い始めます。
藩主の長義とともに、藩主の座を狙う長義の叔父・佐竹嘉門利栄が、国元から江戸に上ってきます。
さあ、大変。

珠子の父で西洋かぶれの権太郎と強面な上臈・三島に、お糸を交えた三人の掛け合いもおかしく、猫好きはもちろん、そうでない人もハッピーな気分になれる、ファンタスティックな時代小説です。

猫をテーマにした時代小説アンソロジーでは、前出の『てのひら猫語り』のほかに、『江戸猫ばなし』(光文社文庫)、『大江戸猫三昧』(徳間文庫)があります。


◎書誌データ
『にゃん! 鈴江藩江戸屋敷見聞帳』
出版:白泉社
著者:あさのあつこ

装本:湯浅レイ子 arD
装画:浅間明日美

発行:2018年4月25日
1,400円+税
379ページ

●目次

その一 猫は世につれ、世は猫につれ
その二 花咲く猫たち
その三 寝転んでも猫
終 天晴れ、猫晴れ、江戸の空


■Amazon.co.jp
『にゃん! 鈴江藩江戸屋敷見聞帳』(あさのあつこ・白泉社)

『てのひら猫語り 書き下ろし時代小説集』(あさのあつこ、金巻ともこ、越水利江子、時海結以、平谷美樹・招き猫文庫)
『江戸猫ばなし』(赤川次郎、稲葉稔、小松エメル、西條奈加、佐々木裕一、高橋由太、中島要・光文社時代小説文庫)
『大江戸猫三昧: 時代小説アンソロジー〈新装版〉』(澤田瞳子編・徳間文庫)

→招き猫文庫|白泉社

コメント

コメント