菩提寺改築!分家の意地のため、世子は金策に奔る


おれは一万石 麦の滴千野隆司(ちのたかし)さんの文庫書き下ろし時代小説、『おれは一万石 麦の滴(むぎのしずく)』が双葉文庫より刊行されました。

美濃今尾藩竹腰家から婿養子として、下総高岡藩一万石井上家の世子となった正紀が窮乏にあえぐ藩を立て直すべく奔走する、痛快時代小説シリーズ第4弾です。

浜松藩井上家本家が菩提寺である浄心寺改築のため、分家である高岡藩井上家と下妻藩井上家にそれぞれ金二百両の供出を言い渡した。困惑する正紀と正広だが、本家の意向に逆らうわけにはいかない。またもや訪れたこの危機をどう乗り切るのか!?
(『おれは一万石 麦の滴』P.50より)


正紀と下妻藩井上家で同じく世子の正広は、かつて将軍家治の御前で試合を戦い、縁戚関係になったことを機に親しい仲になっています。正紀の高岡藩への婿入りに反対する者が少なくなかったように、正広も御家騒動に巻き込まれてて世子となったのはつい最近のことでした。

今回、二人の世子に試練が訪れます。本家筋の浜松藩井上家から、菩提寺の日蓮宗大覚山浄心寺の本堂改築に、それぞれの藩より二百両を供出するように言い渡されます。

財政のひっ迫した高岡藩と下妻藩にとって、二百両ずつという分担金はとても供出できません。さらに二人は造営の奉行を務める羽目に追い詰められます。

「そもそもその方を世子とするのは、時期尚早だと考えていた。諸般の事情でこうなったが、なった以上は、命じられたことをなさねばなるまい。できぬのならば、ご本家に面目が立たぬからな。その折には、身を引く覚悟でかかれ」
 言い捨てると、正棠(まさき)は立ち上がった。そのまま、部屋から立ち去って行ったのである。
「なるほど」
 と正広は思った。正棠にどのような含みがあるかは分からないが、こちらがなすことに、邪魔をしようとしている。本堂の改築に絡めて、自分を潰す腹だと悟った。

(『おれは一万石 麦の滴』P.121より)


一方、正紀の親友、北町奉行所高積見廻り与力の山野辺蔵之助は、日本橋本材木町の材木商高浜屋の木置場で材木が倒れて番頭丑之助が大怪我を負った事件を調べていました。
立てかけていた材木には、たやすくは倒れないように縄をかけられていましたが、縄は何者かによって刃物ですっぱりと切られていました。

材木商の番頭に怪我をさせたのは、誰で、その動機は何なのか? また、菩提寺改築のための分担金は作れるのか。
新しいビール系飲料の商品名のようなタイトル『麦の滴』に託された意味とともに、物語の行方が気になります。

正紀は、江戸橋近くで、地回りふうの男に殴る蹴るをされている、丸眼鏡をかけて小柄でひ弱そうな若い男を助けます。脇両替屋の息子、房太郎との出会いになります。

なお、本書と次巻の『おれは一万石 無節の欅』は、2カ月連続で刊行されます。
本書は、菩提寺改築を巡る話の前編にあたり、次巻がその後編に位置づけられます。
早く続きが読みたいところです。


◎書誌データ
『おれは一万石 麦の滴』
出版:双葉社・双葉文庫
書き下ろし
著者:千野隆司

カバーデザイン:重原隆
カバーイラストレーション:松山ゆう

発行:2018年4月15日
593円+税
278ページ

●目次
第一章 本家の意向
第二章 藩庫の金子
第三章 両替屋の倅
第四章 輸送の荷船
第五章 お上の触れ


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『おれは一万石 麦の滴』(千野隆司・双葉文庫)(第4弾)

『おれは一万石 無節の欅』(千野隆司・双葉文庫)(第5弾)
『おれは一万石』(千野隆司・双葉文庫)(第1弾)



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