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おしどり夫婦、その実態は妻は女盗賊、夫は影の同心

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隠密同心と女盗賊新美健(にいみけん)さんの文庫書き下ろし時代小説、『隠密同心と女盗賊』がコスミック・時代文庫から刊行されました。

新美健さんは、『明治剣狼伝 西郷暗殺指令』で第七回角川春樹小説賞特別賞および第五回歴史時代作家クラブ賞文庫新人賞を受賞し、作家デビュー。著書に「つわもの長屋」シリーズ、「幕末蒼雲録」シリーズがあります。

江戸・八丁堀に住まう町方同心の影浦善朗とおし乃。堂々たる長身の夫に美形と評判の妻で、誰もが羨むお似合いのおしどり夫婦であった。だがその実態たるや、影浦は北町奉行直下の隠密、おし乃も京の都から遣わされた女盗賊という“影の顔”を持っていた。しかも、お互いの闇の姿をつゆ知らず、いつも盗賊として江戸を騒がしている妻を、隠密の同心として夫が追っかけているという凄腕同士の夫婦であったのだ!
そんな影浦とおし乃だったが、幕府の野心、朝廷の大望という大掛かりな企みにも翻弄されていく。さらに、一見敵同士に見えた二人にも心情の変化が芽生えはじめて……。

物語の主人公は、影浦善朗とおし乃の美男美女のおしどり夫婦。
おし乃は、夫の善朗をして「とうに見慣れたはずの美貌に覗き込まれると、たちまち男子の鉄腸が飴のように熔けてしまう」と言わせるほど。

 楚にして艶。
 瞳は大きく、吸い込まれそうな色をしていた。
 京の都の生まれだと聞かされていた。たおやかな風情をまといながらも、凛とした芯の強さを感じさせる。二十四歳と年増もよいところだが、八丁堀一の美形と評判の女房であった。
 江戸で流行の細身ではなく、胸も尻もしっかりと熟している。女にしては、すらりと背丈が高かった。が、影浦も堂々たる長身であり、実にお似合いの美男美女となっていた。
 
(『隠密同心と女盗賊』P.12より)

おし乃は東雲(しののめ)が真の名で、母は島原遊廓の太夫、父は御所に住まう貴人です。武士に略奪された六十六面を奪い返し、改めて朝廷へ奉納するため神事のために、江戸に下り、女盗賊〈猫御前〉となりました。

一方、影浦は同心として不器用な性分で、しくじりの逸話に事欠かない〈見掛け倒しのよい男〉と陰で笑われ、上役に詰られたり、同役から小馬鹿にされたりもしますが、真面目な性分と独特の明るさから、大器ではないかと勘ぐった評価もあります。

「それで、私のお役目は?」
「〈狐〉よ、おめえは加賀藩の屋敷を見張って、なんとか先に〈猫〉を見つけて引っ捕まえるんだ。――できるな?」
「ことによれば、〈猫〉を斬ってもよろしいか?」
 影浦は念を押した。
 表向きは同心だが、影浦は幕府に仕える隠密であり、お奉行の直下で陰働きをする〈影の同心〉であった。
 
(『隠密同心と女盗賊』P.30より)

影浦は陰では〈狐〉と名乗り、北町奉行遠山左衛門尉景元の密命を受けて、時には捕物の邪魔をしたり、窮地の〈猫〉を助けたりもします。

本書の面白さは、おしどり夫婦が、お互いの裏の顔を知らずに、江戸を騒がす盗賊とそれを追う隠密同心という立場で出会い、表の顔を知らずにやがて惹かれていくところです。お色気がほとばしり、セクシーな〈猫〉のボディーに、〈狐〉ならずとも欲情を催しそう。

作品に描かれているのは、天保時代。
幕府の〈狗〉、南町奉行の鳥居甲斐守忠耀が〈猫〉を捕まえようと躍起になっていて、ストーリーにサスペンスを与えています。
軽快なタッチで一気読みができます。
〈猫〉の六十六面探しと、二人の関係の展開が気になり、次巻の刊行が待ち遠しいです。

◎書誌データ
『隠密同心と女盗賊』
著者:新美健
カバーイラスト:加藤木麻莉

出版:コスミック出版・コスミック・時代文庫
発行:2018年3月25日
620円+税
248ページ

●目次
第一話 〈猫〉と〈狐〉
第二話 嘘吹
第三話 悪党の宴
第四話 翁の呪い

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『隠密同心と女盗賊』(新美健・コスミック・時代文庫)

『明治剣狼伝 西郷暗殺指令』(新美健・角川春樹事務所・時代小説文庫)
『つわもの長屋 三匹の侍』(新美健・角川春樹事務所・時代小説文庫)
『幕末蒼雲録』(新美健・角川文庫)