幼馴染みとの恋、初めての大きな仕事。ひたむきに生きる女職人

雪華燃ゆ 上絵師 律の似面絵帖知野みさき(ちのみさき)さんの『雪華燃ゆ 上絵師 律の似面絵帖』が光文社文庫より刊行されました。

着物の上絵描きを職業とする職人・上絵師(うわえし)として独り立ちを目指す若い女性・律(りつ)を主人公に、仕事と恋と事件を描く人気シリーズの第3作です。

上絵師として、初めて着物を手がけることになった律。粋人として名を馳せる雪永が親しい女に贈るものだ。張り切って下描きを仕上げる律だが、なかなか良い返事がもらえない。
そんな中、ある女から金を騙し取ったという男の似面絵を引き受けるのだが……。


江戸の女性たちというと、嫁に行き、子供を産み育てるということがすべて、というような社会の価値観に基づいて、ステレオタイプに描かれることが多いです。

ところが、本書のヒロイン・律は自分の腕で生計(ときには似面絵描きの副業をしながら)を立ています。上絵師という職業に、情熱とプライドを持ちながらも、幼馴染みの涼太との恋も実らせたいと願っています。

若い女性の抱える、仕事と恋の二大テーマをしっかりと描いていることが、このシリーズの大きな魅力の一つです。現代の女性に通じるようなヒロインの律に、共感を抱きながら読み進めることができます。

そして、得意の似面絵描きの副業を通じて、さまざまな事件に関わっていきます。ときには捕物の手伝いもするということで、手に汗握るようなシーンも物語に散りばめらえれています。

 唇が触れて……離れた。
 一尺と間のない涼太と目が合って、律は慌ててうつむいた。
「じゃ……また明日」
「はい」
(『雪華燃ゆ 上絵師 律の似面絵帖』P.7より)


衝撃的なファーストシーンから始まる、律と涼太の恋の行方とともに、二人を取り巻く周囲の人々も物語性豊かに精緻に描かれています。

今回、粋人・雪永が着物を贈る相手として、椿屋敷に住むお千恵という女性が登場します。
痛ましい過去があり、不思議でとらえどころのない存在感を持つ謎の女性・お千恵。初めての大きな仕事に取り組んでいく律は、いかに彼女を理解して、ピッタリの着物を仕上げていくのか、興味を掻き立てられて、一気に読ませます。


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『落ちぬ椿 上絵師 律の似面絵帖』(第1作)
『舞う百日紅 上絵師 律の似面絵帖』(第2作)
『雪華燃ゆ 上絵師 律の似面絵帖』(第3作)