「2017年11月の新刊 上」をアップ

関越えの夜 東海道浮世がたり2017年11月1日から11月10日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2017年11月の新刊 上」を掲載しました。

徳間文庫から、澤田瞳子(さわだとうこ)さんの『関越えの夜 東海道浮世がたり』が文庫になって刊行されます。

両親と兄弟を流行り風邪で亡くし、叔母に育てられている十歳の少女・おさき。箱根山を登る旅人の荷物持ちで生計を立てている彼女は、ここ数日、幾度も見かける若侍が気になっていた。ふつう、旅人は先を急ぐはずだが、誰かを待っているのか?(「関越えの夜」)表題作ほか、品川宿から京都まで、東海道を上るさまざまな人々の喜怒哀楽を描く時代小説集。


東海道を舞台にした時代小説は少なくありませんが、内容はコミカルなものや剣豪もの、捕物小説など、多種多様です。
本書は、東海道を行き交う人々の人間ドラマを描いた連作集で、しかも若手実力派の著者さんということで、とても惹かれます。

表紙のイラストレーションに描かれている白い子犬は物語に登場するのかしら。

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『関越えの夜 東海道浮世がたり』(澤田瞳子・徳間文庫)


→2017年11月の新刊 上


長く切ない恋を成就させた栄三。取次屋ファミリーに新展開

二度の別れ 取次屋栄三(18)岡本さとるさんの『二度の別れ 取次屋栄三(18)』が祥伝社文庫より刊行されました。

手習い道場を営むかたわら、武家と町人の間に入って、時には丸くまた時には強引に収める取次屋商売を営む秋月栄三郎(栄三)が活躍する人気シリーズ。
今巻で18作目。第1作の刊行が2010年12月なので、早いもので8年近くが経過したことになります。

秋月栄三郎の手習い道場に久栄が嫁いできたのを機に、弟子の又平は裏の長屋に引っ越した。やがて生まれる二人の子の成長を見たいがためだった。
ある日、長屋に捨て子が。騒然とする中、又平は満面の笑みで面倒をみると宣言し、赤子の世話を始める。一方、栄三は赤子の親捜しを開始する。すると、栄三も知らなかった又平の切ない恋心が……。


運命的な出会いと別れ、そして再会。

弟・房之助を世に出さんとして苦界に身を沈めた久栄。房之助はその甲斐もあり、異例の引立てで三千石の旗本・永井勘解由の婿養子となりました。久栄も栄三郎の手によって根津の妓楼から受けだされて萩江という名で永井家の奥向きの女中の束ねとなりました。

栄三郎と久栄は、幾多の障害を乗り越えて、長くもじりじりとした恋模様を続けた末に、勘解由の取り計らいもあって遂に結ばれます。

手習い所の手伝い、剣術道場の門人、取次屋の番頭の三つの顔を持っていて、一の子分として、長年栄三郎の身の回りの世話をする又平は、だれよりも二人の恋の成就を喜んでいます。

今回は、その又平に恋の予感が……。

 又平は、懐から取り出した財布をおよしの右手に握らせた。
「又平さん、いけません。わたしはこんなことをしてもらうつもりで、ここまで来たんじゃあないんです。少しくらいなら持ち合わせもありますし……」
 およしは慌てて財布を返そうとしたが、又平はしっかりとそれを押し止めて、
「いいんだよ。色んな男がいる中で、おれに叱られたいと思ってわざわざここまで来ただなんてよう。おれは今とても好い気持ちなんだ。これはそのお礼だよ。ははは、大して入ってねえから案ずることもないさ。情けねえ話だが」
(『二度の別れ 取次屋栄三(18)』P.71より)


人情に厚くて思いやりがあり、笑いに溢れる栄三郎。彼の周りには、その人柄に惹かれて、心温かい人たちが集まります。このシリーズの魅力は、そんな栄三ファミリーともいうべき、栄三郎とその仲間たちの繰り広げる人情劇にあります。

さて、また読書を続けたいと思います。

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『取次屋栄三』(岡本さとる・祥伝社文庫)
『二度の別れ 取次屋栄三(18)』(岡本さとる・祥伝社文庫)


寺子屋の泣き虫先生をめぐるドタバタ人情劇に笑って、ほろり

手習い所 純情控帳 泣き虫先生、棒手振りになる誉田龍一(ほんだりゅういち)さんの文庫書き下ろし時代小説、『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、棒手振りになる』が双葉文庫より刊行されました。
ちょっとしたことにすぐ感動して涙を見せることから、「泣き虫先生」と呼ばれる、手習い所の若師匠の三好小次郎が活躍する人情時代シリーズ第3作です。

手習い所「長楽堂」の先生ぶりも板についてきた三好小次郎。子どもたちからも「泣き虫先生」と呼ばれ、相変わらず慕われているが、そんなある日、小次郎はひとりの子どもの様子がおかしいのに気づく。心配になって家を訪ねてみると、棒手振りの父親が怪我をして働けなくなったという。その子のために、小次郎は父親に代わって、自ら棒手振りになって青物を売り歩くことにする……。


一話完結の連作形式で、今巻では、棒手振りになる話のほかに、手習い所で起きた小判紛失騒動や寺社奉行所をめぐる争いなど、小次郎の周囲で次々と事件が起こります。

とくに最後に収録された「小次郎、剣術試合に出場する」の章では、以前に所属していた藩の秘事に絡んで、小次郎が剣術試合に出場することになります。一刀流の免許皆伝と言われながら、剣を手に取ることがなかった小次郎の、剣の達人ぶりが初めて披露されます。ファンには楽しみな話です。

手習い所の子どもたちに加えて、貧乏寺の住職諾庵や南町奉行所同心の小山鉄五郎、動物と話ができるお蘭らとの掛け合いが楽しく、笑いあり、涙ありの人情時代シリーズは、ますます快調です。

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『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、江戸にあらわる』(第1作)
『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、幽霊を退治する』(第2作)
『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、棒手振りになる』(第3作)


小藩、高岡藩を舞台に、若き藩主が活躍するシリーズ第2弾

塩の道 おれは一万石(2)千野隆司(ちのたかし)さんの『塩の道 おれは一万石(2)』が双葉文庫より刊行されました。

下総高岡藩一万石を舞台に、新しく藩主となった井上正紀の活躍を描く、文庫書き下ろし時代小説シリーズの第2弾です。

1作目の『おれは一万石』では、美濃今尾藩三万石竹腰勝起の次男、正紀が、高岡藩に婿として養子に入るところシーンが描かれています。

大名家といえども、一俵でも禄高が減れば旗本に格下げになる、ぎりぎり一万石の小藩です。領地は利根川沿いにあり、陣屋は現在の千葉県成田市高岡にありました。

高岡藩陣屋跡


武腰正紀は、高岡藩江戸上屋敷を訪ねたおり、堤普請を嘆願する名主の息子と出会い、二千本の杭を調達する約束をしてしまい、婿入り前から高岡藩のために奔走することになります。

小藩ならではの苦労が随所に描かれていて、物語を面白くしています。
正紀の父、勝起も、高岡藩の当代藩主の正国も、ともに尾張徳川家八代徳川宗勝の息子であり、勝起の武腰家は尾張徳川家の付家老を務めています。いずれにしても、高岡藩と尾張藩は縁があることがあります。

一方の高岡藩井上家の本家は、浜松藩井上家となり、常陸下妻藩井上家も分家になります。そうした家と家とのつながりと争いも物語の一つのテーマとなっています。

さて、本書はシリーズ第2作め。

凶作のため高岡藩の米収穫高も例年の七割しかなく、藩財政がさらに困窮することが予想された。
年貢を増やしてこの危機を乗り切ろうと図る江戸家老に反対した正紀は、正式に井上家に婿入りし、世継ぎとなったにもかかわらず、自ら新たな財源を探しに奔走する。
ところが、そんな正紀の行動を面白く思わぬ者もいた……。


藩財政が破綻の危機を迎え、領民のため、藩士のため、若き藩主、井上(竹腰)正紀が新たな財源を求めて奔走する、その活躍ぶりが読みどころです。

高岡藩が登場する作品には、鳴神響一さんの『私が愛したサムライの娘』があります。
ヒロインの女忍び・雪野が高岡藩の陣屋に潜入するシーンが冒頭に描かれています。
下総高岡藩の存在を知り興味を持ち始めたのもこの作品からでした。

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『おれは一万石』(千野隆司・双葉文庫)
『塩の道 おれは一万石(2)』(千野隆司・双葉文庫)
『私が愛したサムライの娘』(鳴神響一・角川春樹事務所・時代小説文庫)

高岡藩|ウィキペディア


「2017年10月の新刊 下」をアップ

幕末蒼雲録2017年10月21日から10月31日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2017年10月の新刊 下」を掲載しました。

角川文庫から、新美健(にいみけん)さんの『幕末蒼雲録』が刊行されます。

西南戦争を背景に、警視隊の藤田五郎と砲兵工廠の村田経芳が、内務卿・大久保利通の命により、西郷隆盛を助ける救出隊への参加する、その設定とストーリー展開が群を抜いて面白かった『明治剣狼伝―西郷暗殺指令』の著者の最新作で、楽しみな一冊です。

狂瀾怒涛の幕末。京都島原遊郭に育った美少年・椿は、生まれながらにして人を斬る術を心得ていた。ある日、椿は芹澤鴨という男と出会う。南朝の皇子を探す芹澤の存在が、椿の周囲を脅かし――。


沸騰する幕末、人斬りの美少年、芹澤鴨……、設定を聞いただけで食指が動きます。

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『幕末蒼雲録』(新美健・角川文庫)
『明治剣狼伝―西郷暗殺指令』(新美健・角川春樹事務所・時代小説文庫)

→2017年10月の新刊 下