「2017年8月の新刊 上」をアップ

本所おけら長屋(九)2017年8月1日から8月10日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2017年8月の新刊 上」を掲載しました。

今回はPHP文芸文庫から刊行される、畠山健二さんの『本所おけら長屋(九)』に注目しています。

金はないけど情はある、個性豊かな面々が揃う「おけら長屋」。新しい入居者として謎めいた女が引っ越してくるが……新展開の第九弾です。

表紙装画に吉原の花魁道中が描かれているので、吉原に関連した騒動も描かれているのでしょうか? どんな展開を見せるのか気になります。

「本所おけら長屋」をまだ読んでいないという方には、『本所おけら長屋【お試し読み版】 Kindle版』をおすすめします。

本所亀沢町にある「おけら長屋」は、大家の徳兵衛、米屋奉公人の万造、後家女のお染など、ひと癖もふた癖もある店子が入り乱れて毎日がお祭り騒ぎ。それもそのはず、お金はないけど人情に厚く、かっとくるけど涙もろい。自分より他人のことが気になって仕方がない。こうした面々が、12世帯も軒を並べているのだ。そんなある日、わけあり浪人・島田鉄斎がやってきて……。


『本所おけら長屋【お試し読み版】 Kindle版』には、第一巻『本所おけら長屋』収録の「かんおけ」と、に著者畠山健二氏へのインタビューが収録されています。紙の本の長さで54ページ分が無料で試し読みできます。

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『本所おけら長屋(九)』
『本所おけら長屋【お試し読み版】 Kindle版』

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醜く蔑まれる、初老の刺客。夜叉萬同心、決死の影始末

夜叉萬同心 もどり途辻堂魁(つじどうかい)さんの、『夜叉萬同心 もどり途』は、シリーズ5作目ですが、出版元を光文社時代小説文庫に移してから、初の書き下ろし新作となります。

浅草・花川戸で貸元の貸元の谷次郎が殺され、その翌日、向島隅田村の隅田川の川縁で、唇に艶紅の塗られた若い女の死体が見つかった。
夜叉萬(やしゃまん)と綽名される北町奉行所の隠密廻り方同心・萬七蔵(よろずななぞう)は、内与力・久米信孝の命により、谷次郎殺しの下手人との差口のあった無頼の徒「あやめの権八」なる男の裏を探り始めるが……。


主人公の萬七蔵は、奉行の信頼が厚い凄腕の町方で、北御番所の夜叉萬と呼ばれ、裏街道の者なら知らぬ者がいないという存在です。
ところが、夜叉萬を見かけた悪で生きている者はおらず、その姿形を見た悪はいないといい、一方では、悪には厳しいが、袖の下はめっぽう緩いという噂もあります。

本シリーズの読みどころは、奉行所の表で裁けない悪を、闇で始末する夜叉萬同心の活躍ぶりです。手先の樫太郎と長唄の師匠・お甲、元岡っ引きの嘉助とともに、悪を追い詰めていきます。

今巻では、七蔵は、隅田川のほとりで起こった二件の殺しの下手人を追います。

貸元の谷次郎殺しの下手人と疑われているのは、「あやめの権八」とみなされている、蕎麦屋「あやめ」の主人常五郎。常五郎のもとには、五十を過ぎた醜い容貌の職人風の男・伊野吉が出入りしていて、七蔵の目に留まります。

 五十をいくつかすぎたころの、気むずかしそうな職人風体だった。
 扁平な顔に鼻が低く、黒い小さな穴のような目が離れていて、唇の暑さが妙に目だった。ほくろと疣が多く、鉛色の顔色が男の風貌をひどく陰鬱な、醜いものにしていた。
(『夜叉萬同心 もどり途』P.48より)


伊野吉が浅草東光院門前の長屋に住む指物師であることを突き止めますが、伊野吉には裏の顔がありました。殺しの請負人だったのです。

一方、隅田川の川縁で見つかった女は、隅田村の寮に暮らす下り塩仲買問屋・隅之江の隠居・お純に仕える下女・お豊であることが判明します。

物語は、伊野吉とお純を軸に展開し、それぞれの過去の闇が深く事件に関わっていきます。
隅田川のほとりで、それぞれの「途」が交差していきます。事件を通して、人の性(さが)があぶり出されていくのも、このシリーズの魅力の一つで、本作でも濃厚に描き出されています。

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『夜叉萬同心 もどり途』
『夜叉萬同心 冬かげろう』(1作目・光文社文庫版)


『文蔵 2017.8』のブックガイドは、「医療小説」の最先端

『文蔵 2017.8』『文蔵 2017.8』(PHP研究所・PHP文芸文庫)のブックガイドは、サスペンスからヒューマンドラマ、時代小説まで 「医療小説」の最先端 です。

サスペンスからヒューマンドラマ、社会派小説まで、多岐にわたるジャンルで、今や一大潮流となった医療小説のおすすめ作品を紹介します。書評家の大矢博子さんが、その人気の秘密に迫ります。

歴史・時代小説のジャンルについては、『ふぉん・しいほるとの娘』(吉村昭著)、『赤ひげ診療譚』(山本周五郎著)など名作から、和田はつ子さんの「口中医桂助事件帖」や上田秀人さんの「表御番医師診療禄」など人気の文庫書き下ろしシリーズまで、広い視野から面白い作品を挙げられています。

葉室麟さんの「暁天の星」をはじめ、あさのあつこさん、山本一力さん、宮本昌孝さんらの連載小説も楽しみです。

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『文蔵 2017.8』(PHP文芸文庫)

⇒『文蔵』ホームページ

「2017年7月の新刊 下」をアップ

天盆2017年7月21日から7月31日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2017年7月の新刊 下」を掲載しました。

今回は中公文庫に注目しています。

数学に情熱を傾ける少年少女たちを描く青春小説『青の数学』で注目される、王城夕紀(おうじょうゆうき)さん。そのデビュー作で、第10回C★NOVELS大賞特別賞(2014年)を受賞した、時代ファンタジー小説『天盆』が刊行されます。

小国「蓋」を動かすのは、国民的盤戯「天盆」を勝ち抜いた者。貧しい13人きょうだいの末っ子・凡天は、十歳の童ながら、異様な強さで難敵を倒していく。
家族の思いを背負い、歴史に挑む少年の神手が、国の運命を大きく変えることに……。


将棋に似た盤戯「天盆」の覇者が政を司る小国「蓋」を舞台に繰り広げられる壮大なストーリーと、将棋の藤井四段を想起させる、盤戯の天才少年の出現という設定に惹かれました。

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『天盆』
『青の数学』

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八丈島から島抜け。兄を救うために、江戸を目指す

追われもの(一) 破獄金子成人(かねこなりと)さんの、『追われもの(一) 破獄』は、時代小説「付添い屋・六平太」シリーズで人気の作者の新しい時代小説書き下ろしです。

博打の罪で遠島となった丹次は八丈島で平穏に暮らしていた。だがある日、新たに島に送られたきた旧知の男が衝撃の話をもたらす。実家の乾物問屋『武蔵屋』が兄嫁お滝に潰されて、両親は首を吊り、兄・佐市郎は行方知れずだという。
優しい兄の窮状を知った丹次は焦燥にかられ、島抜けをして遥かかなたの江戸を目指そうとするが……。


主人公の丹次は、乾物問屋『武蔵屋』の次男坊だったが、兄・佐市郎に対して劣等感を抱き、十四、五のころから町のゴロツキと群れて喧嘩沙汰や恐喝まがいのことを繰り返していました。その末に、橋場の貸元、欣兵衛の子分となり、二十一の時、実家からは勘当されていた。

悲惨な暮らしをする流人たちの中、八丈島に流されて1年ばかりが経ち、丹次は読み書き算盤ができたおかげで、島役所を手伝いをし、島の娘・七恵と夫婦同然の暮らしをしていました。

 その実家の没落を、八丈島で知るとは思いもしなかった。
『武蔵屋』をそのような目に遭わせたのは、自分ではないか――ふと、そんな思いに駆られた。
『武蔵屋』で何があったのか――そのことも気にかかる。

(中略)

 事の真相を知りたい――突きあげる思いが、丹次の胸の中で弾けた。
(『追われもの(一) 破獄』P.48より)


その日から、丹次は破獄(島抜け)を考え始めます。
自分を取り立ててくれた島役人たちの恩情や、七恵との愛情を捨て、平穏な生活を投げうって、それでも江戸を目指すか、胸の裡を葛藤が渦巻きます。

江戸は、八丈島から海上百五十四里(約616Km)のかなたにあります。しかも八丈島と御蔵島の間には、西から北東へと黒潮が流れて入れ、潮流は速く、川の流れのようで、船乗りから、〈黒瀬川〉と呼ばれて恐れられています。

結局、丹次は、手製の筏で、八丈島から大海原に漕ぎ出し、遥かなる江戸を目指します。
その過酷な脱出行にハラハラドキドキさせられ、物語に引き込まれます。
破獄をして追われものとなった丹次が、兄の行方を突き止められるのか、今後の展開が気になる、新シリーズの始動です。

ところで、八丈島からの島抜けを描いた時代小説では、笹沢左保さんの『木枯し紋次郎』の第一話「赦免花は散った」をおすすめします。

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『追われもの(一) 破獄』
『この時代小説がすごい! 時代小説傑作選』(「赦免花は散った」収録)