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凶盗の正体を暴く鍵は、真田信之と井伊直政ゆかりの料理にあり

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上州すき焼き鍋の秘密 関八州料理帖江戸料理小説の第一人者、倉阪鬼一郎(くらさかきいちろう)さんの文庫書き下ろし時代小説、『上州すき焼き鍋の秘密 関八州料理帖』が宝島社文庫より刊行されました。

主人公の藤掛右京は、関八州を取り締まる関東取締出役(通称「八州廻り」)。役目で訪れた土地の料理を仕入れ、江戸に開いた小料理屋「八味」で客に披露する包丁人でもあります。

今回、上州見廻りの任についた右京は、ひそかに食肉用に飼育された上州牛を使ったすき焼き鍋の供応を受ける。
獣肉食を忌み嫌う時代にあって「薬食い」として、この地に秘かに伝わるすき焼き鍋。
実は、93歳まで生き長命で知られた初代沼田藩藩主・真田信之と、隣接する高崎領を治めた井伊直政に由来する美味なのだという。
このすき焼き鍋の秘密に気づいた右京は、上州の凶盗・蝮の羅刹、また江戸に潜伏する鬼颪の喜三郎らの凶盗の捕縛に立ち上がる……。

『包丁人八州廻り』に続く、八州廻りの役人にして、優れた料理人という主人公が活躍する、シリーズ第2弾。
関八州を股に掛けた盗賊を捕縛する捕物に加えて、地の食材を巧みに料理していく主人公の包丁技が魅力です。
今回も、表題にあるすき焼き鍋のほかにも、鮑もどき、ふくら鯛、深川飯玉子とじ、おっきりこみ鍋、八味けんちん、上州うどん、沼田だんご汁など、読んでいるうちにお腹が空いてくるおいしそうな料理が次々に登場します。

「彦根藩が牛の飼育を認められているという話は知っているが」
 右京は首をひねった。
「まさに、その彦根藩と深い関りがあったのですよ」
 寄場役人がいくらか身を乗り出した。
「ほう。彦根藩の井伊家は譜代の筆頭の家柄で、陣太鼓づくりが有名だ。その材料として牛の革を用いるゆえ、肉も味噌漬けにして幕府や諸侯に献上していると聞く。その牛が、なにゆえ上州の榛名山のふもとで育てられているのだ?」
 右京は問うた。
(『上州すき焼き鍋の秘密 関八州料理帖』P.110より)

ウィキペディアによると、獣肉を忌み嫌った江戸時代に、牛肉を食したというと意外な感がしますが、元禄年間に、彦根藩士の花木伝右衛門という人が、薬用牛肉を製造して、食用の道を付けたそうです。

右京が江戸にいないときは、「八味」を一人で切り盛りする料理人・佐吉は、上州の下仁田の生まれ。
佐吉は、かつて盗賊・鬼颪の喜三郎の手下として働いていましたが、悪の道から抜け出しまっとうに生きていくためにかしらを売り、喜三郎一味は右京によってお縄になりました。
しかしながら、盗賊一味の残党がいて、佐吉は故郷に帰りたくても、老母に危害が加えられる恐れがあることから、上州に戻れずにいます。

右京はこのたびの廻村で下仁田に足を延ばし、佐吉の文を老母に届ける約束していますが、凶盗が跋扈し、右京の命を狙う者もいて、上州行きには大きな危難が……。

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『包丁人八州廻り』
『上州すき焼き鍋の秘密 関八州料理帖』

花木伝右衛門|ウィキペディア