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永代橋崩落に題材をとった捕物小説
千野隆司さんの『永代橋の女 へっぴり木兵衛聞書帖』を読んだ。文化4年(1807)8月19日に起こった永代橋崩落に題材をとった、連作捕物小説。主人公の土橋木兵衛は、家禄五十石の無役の御家人で、達筆を買われて、看板書きの内職に精を出していた。四年前までは、御天主番衆だったが、妻の珠江が何者かに殺された事件で、お役を罷免されて家禄を半減させられ、青山から本所へ屋敷替えの沙汰を受けた。
十二年ぶりの祭礼で見物客が殺到し、崩落事故の起こった永代橋で、木兵衛は商家の主人が男に突き落とされる一部始終を目撃した。非道の振る舞いに腹の底から怒りのこみ上げた木兵衛は、犯人の男探しに乗り出す…。
木兵衛は、剣術がまるっきしダメで、刀を構えてもへっぴり腰になってしまうことから、「へっぴり木兵衛」と呼ばれていたが、正義感は強く情に篤かった。第一話「永代橋情けの仇討」、第二話「もらい子」、第三話「残された女」、いずれも永代橋崩落で、運命が変わってしまった人たちを描いている。
永代橋落橋事件を描いた時代小説に杉本苑子さんの『永代橋崩落』がある。中公文庫から出ていたものは絶版になっているようだが、読んでみたい。
永代橋の女―へっぴり木兵衛聞書帖 (学研M文庫)
江戸ノベルズ第7号で文庫書き下ろしを楽しむ
朝日新聞の6月9日付け朝刊に、広告特集「江戸ノベルズ」第7号が掲載されていた。江戸ノベルズ(江戸を舞台にした時代小説)を特集したこの広告企画が折り込まれていると、ちょっと得した気分になる。
江戸文化の研究家の田中優子法政大学教授の話や、文芸評論家で時代小説解説の第一人者の縄田一男さんの本所深川を舞台にした名作時代小説の紹介など、読み応えがある。今回は、江戸の暦について解説している記事が今回の目玉記事。冲方丁さんの『天地明察』の世界を楽しむ際のガイド役になる。
江戸切絵図で読む江戸ノベルズは、今回「本所深川編」。本所深川を舞台にした9つの時代小説作品を紹介しているが、そのほとんどが文庫書き下ろしで、かつ広告クライアントになっている出版社の作品を選んでいる。厳しい条件下でありながら、バランスの取れたセレクションになっていて選者の目の確かさを感じた。
大谷羊太郎さんの「紫同心江戸秘帖」や門田泰明さんの「ぜえろく武士道覚書」など、気になっていたシリーズが含まれていたので、これを機会に読んでみようと思った。
天地明察
紫同心江戸秘帖 両国秘仏開眼 (静山社文庫)
討ちて候 上 〔ぜえろく武士道覚書〕 (祥伝社文庫)
江戸切絵図をかたわらに白金村周辺に思いをはせる
鈴木英治さんの『手習重兵衛 闇討ち斬』を読んでいる。麻布から白金辺りを舞台にした、時代小説を探していて、本書のことを思い出して読み始めている。
主人公の重兵衛は、新堀川の土手で行き倒れになっているところを手習い所師匠の宗太夫に助けられ、居候として暮らすことになる。
宗太夫の家のすぐ西側が武家屋敷になっている。
「下野大田原家の下屋敷だ。一万千四百石というから、小さなお家だな。南側に見えるのは、寄合の戸田さまのお屋敷だ。両方とも二千坪はくだらんぞ」
(『手習い重兵衛 闇討ち斬』P.34より)
作品の舞台となった白金村周辺は土地勘がないので、江戸切絵図をかたわらに置きながら読んでいる。風光明媚な土地といわれているということで、目の前にのどかな風景が浮かんでくる。景色がいいために、大名や大身の旗本の下屋敷や抱屋敷が多く点在している。
たまには江戸の郊外を舞台にした時代小説を楽しむのもいいなあと思う。
手習重兵衛 闇討ち斬 (中公文庫)
安政の大地震、その日を描く
杉本章子さんの『その日 信太郎人情始末帖』を読んでいる。毎回、江戸情緒、人の愛と憎しみを描き、ドラマティックな展開とあいまって、お気に入りのシリーズである。
火事の怪我がもとで視力を失った呉服太物店「美濃屋」の主・信太郎の身を案じるおぬいは、女中奉公をする。信太郎の目が回復しないまま、美濃屋では手代頭が店を辞め、別家の菱屋は美濃屋の得意先に主家との約定を破って出入りをするなど、揉め事が続く。そんなある日、江戸に大きな地震が起こる…。
シリーズ第6作目の今回は、呉服太物店の主になった信太郎の新しい生活とともに、安政の大地震の発生したその日が描かれている。地震が起きたときの人々の動きが複眼的にとらえらえていて面白い。
物語中で、江戸城の御金蔵が破られて、小判四千両が盗まれた事件のことに登場人物の一人が触れるシーンがあり、興味深かった。
その日―信太郎人情始末帖 (文春文庫)


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