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江戸の旬と人情が堪能できる、料理時代小説

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高田郁(たかだかおる)さんの『想い雲』を読み終えた。シリーズ第3弾で、さまざまな苦楽をともにすることを通じて、培われた「つる家」ファミリーのチームワークがなんとも快いです。

土用の入りが近づき、澪は暑気払いに出す料理の献立に頭を悩ませていた。そんなある日、戯作者の清右衛門が版元の坂村堂嘉久を連れて「つる家」を訪れた。食道楽の坂村堂は、澪の料理に感心し、自ら雇い入れている上方の料理人にぜひこの味を覚えさせたい請う。

翌日、坂村堂が連れてきた料理人は、行方知れずとなっている、天満一兆庵の若旦那・佐兵衛と共に働いていた富三だった。澪と佐兵衛の母・芳は、佐兵衛の行方を富三に聞くが、彼の口から語られたのは耳を疑うような話だった…。

今回、新登場の坂村堂がいい味を出している。食通ぶりと曲亭馬琴を想起させる戯作者・清右衛門との掛け合いがたのしい。澪の作る料理のおいしさが的確に伝わってくる。

とくに、表題作の話の中で、澪が鱧の料理に立ち向かうシーンが緊張感と凛とした美しさがあって、気に入っています。

この本を読んで、江戸の人たちが季節と旬の食材を大事にしていることが実感できました。自分が季節感のない食生活を送っていることに少し反省しています。

「読売のことは嬉しくなかったのか」
 そう声をかけられて、澪は躊躇いながらこう答えた。
「読売に書かれた言葉よりも、この店に足を運び、食べてくださるお客さんの美味しそうな顔の方が、私には大切なんです」
(『想い雲』P.207より)

「どんな時にも乱れない包丁捌きと味付けで、美味しい料理を提供し続ける。天賦の才はなくとも、そうした努力を続ける料理人こそが、真の料理人だとあたしゃ思いますよ」
(『想い雲』P.249より)

澪の作る料理がおいしくさせるのが、食べてくれる人のことを思いやる気持ちがしっかり込められているから。

●目次
豊年星――「う」尽くし
想い雲――ふっくら鱧の葛叩き
花一輪――ふわり菊花雪
初雁――こんがり焼き柿
巻末付録 澪の料理帖

『想い雲 みをつくし料理帖』
2010年3月18日第1刷
571円+税
281ページ
装画:卯月みゆき
装幀:西村真紀子(albireo)
★★★★☆

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