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『武道通信』十ノ巻 特集:時代小説礼賛!について

『武道通信』十ノ巻 特集:時代小説礼賛!「武道精神ヲ以テ 今日ノ日本ヲ生キル」をテーマに隔月で刊行されている雑誌『武道通信』の十ノ巻で、時代小説の特集が組まれた。『武道通信』は、リングスなどで活躍された総合武道家の前田日明さんが編集長を務める硬派の武道雑誌。

3月、「時代小説SHOW」のゲストブックで、編集・発行人の杉山頴男さんから時代小説の特集を組むので、原稿をと声をかけていただき、図々しくも二つ返事で拙文を書かせていただいた。その昔、仕事でつらかった時期に、藤沢周平さんらの時代小説とUWFで活躍されていた前田日明さんらのファイトに、癒され励まされていたことを思い出し、少しでも恩返しができればという心境だった。

杉山さんからは、「時代小説賛歌、そして時代小説SHOWのホームページを立ちあげた理由に触れていただきたい。そして、ホームページに投稿する方々の人気時代小説、また理流さんの視点を交えて、時代を室町から幕末に定め、武士、忍び、股旅ものに絞り、掲載書籍リストにあります、カテゴリーの伝奇、捕り物、歴史ミステリー、市井を外し、大まかな時代区分にそって作品(著者名も)の時代小説年表をお願いしたい」といった原稿の趣旨を説明いただき、「時代小説羅針盤」といったタイトルの原稿を書かせていただいた。

時代小説羅針盤
でき上がった掲載誌を送っていただき、目次を見て、錚々たる執筆陣の中に、自分の名前を見つけて、いささか面映いところだが、それ以上に、他の記事が興味深くて一気に読み進めた。



『武道通信』十ノ巻 特集:時代小説礼賛!
発行:(有)杉山頴男(ひでお)事務所

■目次

論客談言 西郷隆盛の遺訓 津本陽
前田日明編集長対談 論客・津本陽
「歴史の流れよりも男の夢を追う」

特集 時代小説礼賛―懐に時代小説、心に日本刀

語り継ぐ剣の思想 秋山駿
天然理心流の秘伝 平井泰輔
『蝉しぐれ』の剣戟 小川武
時代小説羅針盤 理流

蘇れ! 日本刀 藤岡弘
日本男児の理想と正義 三浦実
剣客、秘伝のこころ 杉田幸三
武士の妻―「大名の女腹切り」 梅本育子
鎖鎌は日本独特の「フェイク」だった 齊藤浩

トルコ―百年越しの民族感情 小杉英了
武道の中の日本 覚悟と作分 松岡正剛
刀剣講話 日本刀が蘇る日 高山武士
中学生でもわかる兵法 「勝つ」とは? 最終的な「勝利とは」? 兵頭二十八
日本の美意識 おりかがみ 風柳祐生子
侍の作法と嗜 第三十四項 名和弓雄
武道家のための日本武道医学(十) S・パリッシュ
現代版『聖中心道肥田式強健術』(七) 恩蔵良治
日本伝柔術の世界(十) 小佐野淳
武道格闘技事典(九) 編集部・構成


目次でまず目を引いたのが、天然理心流の第十代の平井泰輔さんの「天然理心流の秘伝」。『燃えよ剣』の通説「道場試合に弱い」わけや天然理心流の開祖・近藤内蔵之助はお庭番だったという論を開陳。新選組を理解する一助になるかも。また、神道無念流剣術第十代の小川武さんが、古武道家の眼で、藤沢周平作品の名作『蝉しぐれ』の剣戟シーンを解剖する企画も、『武道通信』ならではといったところで、剣の奥深さを感じる。

作家の梅本育子さんの書かれている、松平安芸守吉長夫人節子の切腹の話や、戦国・江戸・明治期の剣客219人のデータベース『精選日本剣客事典』(光文社文庫・絶版=古本で見つけられた方は絶対「買い」)の著者である、杉田幸三さんの時代小説剣客列伝など、面白く読ませていただいた。

文芸評論家の秋山駿さんの時代小説論や、抜刀術の名手でもあり、仮面ライダー1号の藤岡弘さんの時代劇と武の精神性に触れた文章もある。

本を見て、「しまった」と悔やんだことが一つあります。それは、自分の原稿の中で津本陽さんについて触れることができなかったこと。津本作品については、強者の歴史小説のイメージが強くて、数作しか読んでおらず、氏の代表作といわれているものについてもほとんど読んでいない状態だったので、外してしまった。巻頭の前田日明さんと津本陽さんの対談を読んで、氏の視点が歴史の流れよりも一人の男の生きざまに向いていることがわかり、認識を新たにした。今後しばらく、津本陽さんの作品を追いかけてみようと思う。

下版後の4月、桜が満開の頃、国立で、発行人の杉山さんと初めてお会いする機会があった。編集部との原稿のやり取りはメールとファクスで行っていたので、どんな人だろうかといろいろ想像していたが、編集者というよりは古武術の先生といった様相。当日は、弓道道場帰りといういでたちも関係しているが…。ベースボールマガジン社に長くおられて、「格闘技通信」の編集長もされていたということで、前田さんとの交遊ももその関係からとか。6月中旬からは、インターネットで『武道通信』の記事が読めるようになるということ。こちらも期待してください。

(2000年4月10日・理流)

『武道通信』のPDF版がインターネットで、武道通信のサイトで販売されています。

http://www.budotusin.net/pdf.html

(2011年5月29日 追記)

伝説の時代劇スター『月形龍之介』について

月形龍之介 「月形龍之介HP」(注:その後、「BIKENSHI」に移転)でおなじみのマンガ家・中田雅喜さんが編集された『月形龍之介』(月形哲之介監修・ワイズ出版・3,800円+税)が遂に刊行された。HPの制作日記などでその奮闘ぶりはきいていたが、実際の本を手に取ると、その中身の濃さはちょっと感動もの。

長男でかつて俳優としても活躍されていた哲之介さんの監修により、ファミリー総出演による日本映画黄金期の名優・月形龍之介の集大成本。内容は、自伝やエッセイ、インタビュー、日記、対談、句集、出演作品リストなどで構成され、400ページ以上にもわたる貴重で濃い内容のものだ。

とくに60ページに及ぶスチール写真で構成された「月形龍之介劇場」が圧巻。『姿三四郎』、『無法松の一生』、『水戸黄門漫遊記』など、タイトルだけは知っていた作品から、初めて見る作品まで、予告編を観ているような楽しさがあった。実は、このページで月形さんのお顔をじっくりと拝するまで、龍之介さんの顔を思い浮かべることができなかったのだ。

切れ長の目で端正なマスク、背筋をピンと張り、凛とした感じが何ともかっこいい。スチール写真はそれぞれポーズが決まっていて構図の勉強にもなる。ど派手な恰好や白塗りをしていないのも親しみやすく、今見ても新鮮。女優との絡みが少ないのがちょっと残念。『敵討破れ傘』、『海賊船』、『殺陣師段平』など、ぜひ、今度は動いている月形さんを観たいものだ。


『月形龍之介』
月形哲之介監修
円尾敏郎・高橋かおる・中田雅喜編集
ワイズ出版刊
amazonで見る

CONTENTS

第一章 月形龍之介劇場
第二章 俳優への道 月形龍之介
第三章 想い出の記 門田サト(月形龍之介夫人)
第四章 月形龍之介の子として 月形哲之介
第五章 日記 月形龍之介
第六章 エッセイ 月形龍之介
第七章 対談 月形龍之介 近藤宣彦 村瀬玄妙
第八章 句集 月形龍之介
第九章 エッセイ
第十章 インタビュー
第十一章 月形龍之介出演作品リスト

自伝の「第二章 俳優への道」と夫人の想い出が綴られている第三章で、月形龍之介さんの半生がわかる構成になっている。 さまざまな仕事についた独立心旺盛な少年時代、その後夫人となるサトさんとの駈け落ち、京都での役者修行と下積み時代の苦労、独立プロダクション設立など、時代劇スターとして確固たる地位を築いた全盛期…。ドラマを地でいくような波瀾万丈の生涯を送られていて、どの部分を切り取っても面白い物語が作れそうだ。マンガ家の中田さんが、若き日の月形をぜひ描きたいと、イレ込まれている理由がよくわかった。
バンツマ(阪東妻三郎)さんや作家直木三十五さんのこと、映画作りに取り組む姿勢、私生活など、興味深い話が綴られている。長男の月形哲之介さんの話も龍之介さんの温かさと大物ぶりを伝えてくれて面白かった。同じ扮装をしていることもあるが、『それからの武蔵』の二人はそっくり。現場で間違えられたりしなかったのだろうか?

3,800円というと2枚組のCDぐらいの値段で本としては高いが、グラビアページが60ページもあり、400ページを超えるボリュームに、貴重な写真や話が満載なので納得。月形龍之介の今世紀最初で最後の集大成本で、中田さんによると、編集者やインタビューに協力された方々も、全員持ち出しの大赤字覚悟で作った本ということ。月形さんの映画を観たこともなければ、それほど熱心な時代劇ファンでもないボクでさえ、大満足の一冊。リアルタイムに映画を観てきた人には涙モノかも。

(2000.1.25・理流)



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